サオン、初めての迷宮
学園が始まって、初めての休日。
今日は初めての三人揃っての迷宮だ。
クラウドは留守番だから、果物を多めにあげておこう。
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて、その場でくるくる回る。かわいい。和む。蜘蛛が苦手な人はもったいないわ。
そうこうしているうちに二人の準備も整い、オネエのメイド服初披露だ。
「おぉ、想像通り! 素敵! あー私も新しい服欲しいかも。メイド服に合わせるなら執事っぽい感じ? 女ボス系もいいわよねぇ」
オネエのメイド服は正統派、クラシカルな感じだ。足首までの長めのスカートにフリルは最低限に抑えられている。ヘッドドレスはつけているけど、サオンのものよりやはりシンプル。いつものポニーテールではなく、三つ編みをお団子にしていてかわいさアップ。でも背が高いせいか顔立ちのせいか、かわいいっていうより綺麗とかかっこいいって感じなんだよね。
「女ボス……?」
「悪役幹部みたいなっ! あー、でもでも、盗賊系もいいよね。ホットパンツとかかわいいし。迷う!」
テンションあがるわー。
でも服を作るならまず稼がないとね。防御力のある布って高いから。
「肌が露出するとその分防御力が下がりますが」
「そこなのよね。何かいい素材ないかな」
「そうですね……魔法素材なら何とかなるかもしれませんが、かなり高価ですよ」
そうなんだよね。
露出している部分は、当たり前だけど弱い。特に脚となると森を歩くだけで傷が出来る。
魔法素材で透明か薄い肌色のストッキングを作れば何とかなるかな?
「透明で防御が出来るものとなると……海月でしょうか」
「海月? 海のあのぶよぶよした?」
海か。夏季休暇に海に行けないかな。以前に行ったシーズの村はどうだろう?
「深い海でなくてはなりませんし、北方にしかいない種類ですね」
北方かよ!
来年雪うさぎ狩りに行けば、一緒に狩れるだろうか。さすがに海には入れないから、引き出す感じになるのかな。
「夏が良いですね。狩らなくても地元に行けば素材が見つかるかもしれません」
やはり夏季休暇か。
夏季休暇の話はしていないけど、実家に戻った方が良いのだろうか。お母様から連絡がなければ帰らない方向で考えたい。せっかくの長期休暇、遠出してクエストが受けられる。王都の迷宮以外にも行ってみたい。
今日は五階まで転移の魔方陣を使うことにした。効率重視だ。
六階に降りて、モンスターを探す。
「ん、いる。サオン」
「はいっ!」
前方に見えたモンスターをサオンが投擲で仕留める。脳天一撃。投擲に関しては完璧だ。
「あ。前方虫モンスターだわ。下がりましょうか」
「……セリカ様、後ろも虫です……」
サオンの声が震え、毛も微妙に逆立っている。
「挟まれたわね。しょうがない、狩りましょうか。解体はしなくていいからね」
話しているうちに増えて来たぞ。
虫モンスターの数は少し多めで、オネエでは追いつかない。
「サオンそっちお願い。私は前方をやるわ」
「は、はいっ!」
サオンの初虫モンスター戦だ。気合いれていこう。
前方の虫を殲滅して振り返る。サオンは大丈夫だろうか。
「……すごい。毛を逆立てながら攻撃してる」
「一撃も外してませんね」
「さすがサオン」
涙目だけど。
虫系モンスター計十六匹を解体し、素材を袋に詰める。サオンの袋にはいれない。
「虫系モンスターは素材が少なくてうま味が……」
「軽いからあたしは好きですね」
「あ、確かに。軽いのはいいよね」
素材が嵩張らずに数を倒せるので、経験的にはおいしいかもしれない。安い素材を捨てればもっと効率よく稼げるのはわかってるんだけどね。
補助魔法を使いまくり、小さな傷が出来るたびに治療してるので、神聖魔法だけはかなり順調。火魔法はオネエに任せているのであまりがあってないけど、他の魔法もそこそこ上がっている。
室内でちまちま上げるのと、迷宮で自由に使えるのとでは大分違う。魔力に限りはあるけど、日帰り迷宮くらいでは不足しない。高価な回復薬の出番は今のところない。
「サオンも問題なさそうで良かった。虫も意外と大丈夫みたいだし」
「さすが獣人ですね。回避系が設定したばかりとは思えません」
確かに。
サオンに設定したステップ、ジャンプ、ダッシュは最初からすごかった。伸びも良いし、すぐに軽業を覚えられそうだ。私はあんなに時間かかったのに、羨ましい。
獣人であるサオンがこうなのだから、エルフは魔法や弓、ドワーフは鍛冶やハンマーの伸びが違うんだろうか。エルフやドワーフは学園にいないようなので、話す機会がない。残念だ。
そして止めを刺された。
時間が時間なのでそろそろ帰ろうかというところで、虫系モンスターの大群が現れた。
こちらから攻撃しなければ向かってこないタイプで、攻撃力も防御力も低い、危険の少ないモンスターだ。毒は持っているが、薬ですぐ治るし、ニ三日したら抜けるような微弱なもの。回収できる素材は安価でまったくうま味なし。
が、しかしだ。
階段に向かうまでの一本道、壁伝いにびっしり詰まった虫。その中を如何に害がないとはいえ、歩くのは苦行。虫嫌いならなおのこと。
「無理、無理ですぅ~」
「だよねぇ。やっちゃうかぁ」
「仕方ありません」
「ふ、う、ぅう~」
泣きそうになりながら両手に短剣を構え、サオンが走る。通り抜けざまに虫を斬る。早すぎてついて行けないんですが。
私とオネエは残りを処理し素材を回収しながら歩く。うん、サオン頑張れ……。
階段までの道がひらけ、サオンは安堵の表情を見せた。
「サオン、先に休憩所に行ってて。私とオネエは素材回収したら行くから」
「はい、ありがとうございます、ごめんなさい……」
しょんぼりと耳を伏せ、サオンは階段を登って行った。
「さて。二日間迷宮に行ってみてどうだった?」
初日で虫地獄に遭遇してしまったので、もう行かないでもいいよと言ってみた。少し迷った素振りではあったが、サオンは二日目も迷宮に潜った。
二日間で諸費用差っ引きの十五万。やっぱり安い素材は捨てて高い素材を狙うべきだろうか。今回は虫系が多かったせいもあるんだけど。
「虫、ちょっとは慣れた気がします……」
初日の虫地獄を越えての二日目で、そこそこ虫が出て来たことが良い意味で止めになったらしい。逆にトラウマにならず吹っ切れて良かったね。
「やはり、安い素材は捨てた方が良いのでは?」
「だよねぇ。上はさっさと突っ切って、来週は七階に行ってみようか。七階の方が高い素材があるって聞くし」
「そうですね。
効率よく稼ぐならその方が良いです」
サオンの武器の質を上げたいので、ちょっとお金が欲しい。それに今後のことを考えても、お金はあればあるだけ良い。ハンターで成り上がって貴族になっても、なれなくても、まとまったお金があるのとないのではだいぶ違う。
万が一ハンターをやめないと行けなくなったとき、サオンとオネエに纏まったお金を渡したいというのもある。退職金のようなものだ。
「サオンの短剣の質向上と、素材をいれる袋ももっと入るのが欲しいわよね」
私たちが今使っているのは、重さが軽減される比較的安いものだ。もっと軽くなるものもあるし、素材が圧縮されるタイプのものもある。さらに高いものは異空間に繋げるタイプだってある。ただしこれは桁違いだ。家が買える。
「あとは、虫除けの道具もあるらしいから、お金貯まったら買おうね」
「そんなものがっ!?」
「昨日素材売る時に教えてもらったのよ」
全種類の虫に効くわけではないらしいが、上層部ならわりと使えるらしい。布とフリルを先に買ったので今は手持ちがない。来週末には買えるだろう。
「じゃあ今週の予定ね。オネエはメイド服の替えをお願い。サオンは掃除洗濯の他にダーツ倶楽部に来てもらうから、よろしくね」
三人での戦闘はなかなかのバランスだし、このまま順調にいけばいいなぁ。




