講義
各自の時間割が決定し、HRで配られた。
学園は週休二日制、曜日については日本と一緒。一限九十分で一日四限。選んだ教科によっては一限しかない日がある人もいる。
時間割には教科の他に担当講師と講義場所も記されている。
今日の午前中は二限とも魔法基礎。初めて魔法を習うので楽しみだ。
「このように魔法には属性があり――」
……本で読んだことのあることばかりでつまらない。
講義そっちのけで教材を読み進めていくと、三分の二は魔法書で読んだ内容だった。これ、新しい分野に行くまでどれくらいかかるんだろう……。
今講師が説明しているところは、属性についての項目だ。このあとは軽くそれぞれの属性の説明と、呪文の種類。最後の神聖魔法の項目で、補助魔法の説明が入るようだ。確実に今日の授業は暇である。
暇なので教室内を観察することにした。
色彩鮮やかな頭の数々。真面目に講義を受けている人もいれば、違う本を読んでいる人、居眠りしている人もいる。私も違う本持ってこようかなぁ。図書室にも行ってみたい。
観察しながらクラスメイトの顔を覚える。食堂で見掛けたら声を掛けてみよう。教室で声を掛けても、個人食堂だったり、他クラスの連れがいたりするかもしれないし。
九十分の授業が二限終わり、昼食の時間。今日も一人で食堂へ行く。
天丼大盛りを持ってクラスメイトの顔を探してみる。はい、いない。皆どこで食べてるんだ。全員が個人食堂とかないよね?
空いている席へ座ると今日はすぐにコジローがやって来た。焼き鮭定食。大根おろしなし。魚三日目じゃないか。
もう私、お昼はずっとコジローと一緒でいいんじゃないだろうかと思う。約束してるわけでもなんでもないけど、これで連続三日目である。二人とも毎回同じ場所に座るせいだな。
「また丼か」
「丼制覇中なの」
丼が終わったら、定食制覇するんだ。
「麺類がないのが残念だ」
「確かに。うどんも蕎麦もラーメンもないもんね。パスタはあるけど」
ビニールに入っているようなうどん玉や蕎麦玉がないから、これから先も食堂で扱われることはないと思う。さすがに食堂で手打ちはないだろうしね。パスタのように注文数が多いならともかく。
「通りの店に行くしかないな」
「鉄板焼きの向かいの蕎麦屋が美味しいのよね」
「そうだな。うどんなら宿の隣」
「そうそう。それでラーメンは仕立屋の隣ね。スープの味が色々あるし、煮玉子が絶品だわ」
それから麺トークで盛り上がり、食べ終わった後も食堂に居座ってしまった。空席は多いので迷惑にはならないだろう。
「ん?」
食堂を出る時になにか視線を感じた。振り返るが誰の視線かはわからない。
あまり好意的な視線ではなかったような気がするし、入学式の二人組かもしれない。スケッチ少年から連絡はないけど、今度こっそり見に行ってみるか。
午後は生物と歴史。私は歴史を取ってないので三限で終わる。
生物も受験勉強でやった内容で、面白みはない。受験勉強範囲外だったモンスターの範囲になれば楽しいのだろうけど、これもまた先が長そうだ。しばらくは何か本でも持ち込んだ方が良いかもしれない。
ユーリー様も歴史は取ってないそうなので、ダーツ倶楽部に行くことになった。とはいえ何も用意がされていないので、今日は道具を手配するだけだ。
倶楽部棟の三階の角部屋に、ダーツ倶楽部の部屋が用意されていた。
ダーツが出来る場所とお茶を淹れるスペースと飲むスペース。寮の部屋より確実に広い。これならダーツの的をいくつも用意出来そうだ。
ユーリー様の従者と三人で色々話し合い。お茶を淹れるための道具や食器類、常備する茶菓子をメモに書き出す。ダーツ関係も同様。スキルを反映するものとしないもの、動く的も注文する。動く的は特注になるので時間が掛かりそうだ。王都にはジャーヴォロノク家のご用達レメス・ベアートゥスの工房があるので、ダーツ関係はここに注文を出すそうだ。近かったらお世話になったリェーン・パウペルの工房に頼みたかったが仕方ない。
話し合いを終える頃には四限目が終了していた。
「道具が揃ったら連絡する。今日はこれで終りにしよう」
活動室の鍵を二つ渡された。私とサオンの分だ。活動室の掃除は業者か使用人がするそうで、ユーリー様の従者も鍵を持っているらしい。そりゃそうだ。貴族は自分で掃除しない。学園の掃除は業者だし、寮は自分の使用人か業者だ。掃除業だと就職口豊富そうだな。
武器愛好倶楽部へ行くと、上級生が一人待機していた。
全員が揃ったら自己紹介となるので、それまでは自由にして良いと言われたので、御言葉に甘えて色んな武器を扱ってみよう。
まずは大剣を持ち上げる。さすがに片手持ちは無理で、両手持ちだ。片手で持って振り回したかったんだけど。隙だらけになるのは承知の上だが、やっぱり大きく振り回すのってかっこいいよね。
残念なことに素振りが二回しか出来なかった。腕がぷるぷるする。
早々に諦めて次はハンマー。これは大型なものと小型なものがあったので、小型のものを持つ。小さいので片手でいける。数回横に振ってみるとすぐにスキルを取得した。さっそく設定する。
本命はハンマーだけど、今日は他のものも使ってみる。トンファーにしようかな。
トンファーを持って、手首を回す。回らない。
「あれ?」
手首を回す。うん。
「私トンファーの才能ないわ……」
スキル制のはずなのに。
トンファーが回らない。スキルも覚えない。
続ければどうにかなるかもしれないけど、とりあえず諦めよう。あぁ、夢のトンファーキックが……。
スキルを三つほど覚えたところで、他の先輩とコジローが来た。今年はコジローと私の二人らしい。先輩も五人しかいないので、多くも少なくもないのだろう。そのまま自己紹介をして、各自自由に武器を扱ったり、お茶を飲んだり。
私は二年のカイ先輩に道具の場所を教えてもらい、三人分のお茶を淹れた。誰も使用人を連れていないので、自分で淹れても不自然ではない。
「美味しいです。セリカさんはお茶を淹れるのが上手いですね」
「ありがとうございます、カイ先輩」
カイ先輩は新入生の面倒を見る指導係に任命されているらしい。黒髪を後ろで一つに束ねた、線の細い人だ。他の先輩たちは皆筋肉がモリモリしてるので、威圧感を与えないために指導係を押し付けられたらしい。
私とコジローだからいいけど、スケッチみたいなタイプだと確かに怯えそうだよね。想像してちょっと笑う。
「カイ先輩もコジローと同じで刀を使うのですね」
「ええ。父が東ノ島出身なのですよ」
黒髪に茶色の瞳で、確かに日本人のような顔立ちだ。
「お主も刀を使って見たらどうだ?」
「いいわねぇ」
「良いですね。僕も刀なら多少は指導出来ますし」
せっかく指導者もいるし、刀も使ってみようかな。
お茶を飲み終わった後は、二人に刀の持ち方から教えてもらい、スキルを取得した。
これで今日増えたスキルは四つ目だ。
「もう四つも? 全部設定出来ないでしょう?」
「今ならギリギリですね。魔法の授業が始まるまでですけど、そのあとで絞ろうと思います」
本命は刀とハンマーかな。
最初は伸ばしやすいものから練習したい。
「あ、そうか。一年生はまだ魔法実技がないんですね」
「はい。七ノ月までに決めようと思います」




