倶楽部
ナビール魔法学園の倶楽部は、社交の場として使われている。
まぁ、もともと倶楽部とはそういうものなんだけど、日本の部活動よりもかなり社交に重点が置かれている気がする。
練習や試合よりもその後の寄道の方がメインというか、むしろ雑談がメインというか。部活というか飲み系のサークルが近いかもしれない。
そして数が多い。掛け持ちは当たり前で、部員が一人からでも成立するので数だけが増える。そして各倶楽部ごとにお茶が出来て活動が出来るスペースが設けられているのだ。その費用はいったいどこから……寄付金ってやつ?
男子の約半数が入っているという、一番大きな倶楽部が剣術倶楽部。特に騎士を目指している生徒が多いらしい。ユーリー様も騎士志望だし、この倶楽部に入ると思う。
次に大きな倶楽部はダンス倶楽部。男女比が半々に近く、何と言うか……婚約者のいない生徒が多く所属しているらしい。うん、すごくわかりやすいね。
次からは規模が小さくなって、刺繍倶楽部やレース編み倶楽部、弓術倶楽部、馬術倶楽部、魔法研究倶楽部など。この辺りは同じ内容の倶楽部が少人数でたくさんあったりする。派閥とまではいかないけど、仲良しグループごとに固まっているらしい。
あとはマイナーな読書倶楽部や武器愛好倶楽部、魔道具制作倶楽部などがある。武器愛好倶楽部は剣や弓以外の武器で色々鍛錬するような倶楽部だ。
「フェリシー様はどの倶楽部に入るんですか?」
「私はまだ迷っていて……セリカ様はどこに入られるのですか?」
「そうですね。武器愛好倶楽部と魔法研究倶楽部に見学に行こうと思っています」
「えっ」
「え?」
妖精さんが目をぱちくりと瞬かせる。
「お前……フェリシーは連れて行くなよ」
「行きませんよ。フェリシー様は興味ないでしょうから」
席が自由だったので、私はフェリシー様の右横を確保している。赤髪はフェリシー様の左横で、なぜか私を見張っている。害はないって言ってるのに。
ちなみに王子はアルベール様の左横に座って、眠そうにぼんやりしている。
それを見た女子は憂いていらっしゃるわ、素敵、とか言ってるけど、何でこんなに認識が違うのか。これがジェネレーションギャップか。
「レース編みをするフェリシー様はさぞかし絵になるでしょうねぇ……」
想像するだけでうっとりするだ。ぜひ窓辺でお願いしたい。
「フェリシー、レース編みは止めておけ」
何でだよ。
「お二方はやはり剣術倶楽部ですか?」
「そうなる。入学前から誘われているからな」
そういうとアルベール様は軽く溜息を吐いた。
上位の貴族ともなると、倶楽部の勧誘も熱心なんだな。私は無縁で良かった。お母様から倶楽部の指名はされてないし、好きなところに入れる。
「お二方に釣られて剣術倶楽部は大所帯になりそうですね」
「もともと人数多いし問題ないだろ」
「殿方は大変ですわねぇ」
「いやお前……」
個人食堂に行くフェリシー様と別れ、またも一人で食堂に訪れた。私このままだと一人だわ。気楽で良いけどね。言葉遣いが大幅に崩れている時が多いけど、本来はいつでも誰に対しても丁寧でなくてはならない。面倒くさいのだ、本当に。
秋刀魚にも惹かれるけど結局親子丼大盛りにして、空いている席を確保。今日も空いている席は多い。個人食堂を使っている人が思ったより多いのかも。
半分ほど食べたところで、向かいの席にトレーが置かれた。焼き鯖定食。大根おろしなし。
もしかしなくてもコジローだった。
「今日も魚……」
「寮の食事は肉が多い」
バランス取ってるのね。
確かに寮の朝と夜は肉が多い。米が出ることもないし。
しかしコジローも友達いないのか、今日も一人。いや、私と一緒できっと友達が個人食堂なんだ、きっとそうだ。
ゲームだとキャラの友人関係なんてほとんど出ないからね。せいぜい主人公とお助けキャラ、王子と赤髪コンビくらいだ。
「倶楽部はどこに?」
「まだ決まってないけど、午後からは武器愛好倶楽部と魔法研究倶楽部に見学に行くつもり」
「そうか。武器愛好倶楽部で会うかもしれないな」
コジローは刀を使うので、実技の選択もその他で、倶楽部も刀の鍛錬になるところを選ぶつもりらしい。刀は使う人が少なくて相手を探すのも難しそうだ。
「お主は何を?」
「ハンマーとか大剣とかかっこいいよね」
「持てるのか?」
「最初は無理でもパラメータが伸びれば補正あるし」
「気の長い話だな」
確かに。持てないものでどうやってパラメータを上げていくのか。
うーん、重くて持てなかったら軽いものを作るべきか……。
「その二つにこだわらなくても、いろんな武器を使って見たいかな。自分に合う武器が見つかるかもしれないし」
夢は全スキルマックスだ。ターゲットによって武器を変えるとかいいよね。そして変形武器はロマン。
普通なら一つを極めた方が良いとかあるんだろうけど、スキル制の世界だし、しかも私には自由設定がある。
コジローみたいに刀もかっこいいよね。
今日の午後は新入生の見学者を迎えるため、すべての倶楽部が活動をしている。
見学者が来る前提で活動しているので、どの倶楽部も熱が入っているようだ。
まずは魔法研究倶楽部に見学に行こう。魔法研究倶楽部はいくつかあるので、順番に見ていくことする。
特定の属性に特化して研究している倶楽部もあれば、浅く広くな倶楽部もある。論議するだけの倶楽部、お茶会ばっかりな倶楽部と様々。
入るなら時空魔法かなぁ。でもちょっと想像と違った。もっとこう……マニアックな雰囲気漂う感じで想像してたんだけど、実際は和気藹々な仲良し倶楽部が多い。それはそれでいいんだけど、私の思ってた魔法研究と違う。
魔法の授業が始まってから入部する人も多いらしいので、私もそれから考えようかな。
次は武器愛好倶楽部の見学だ。様々な武器が揃えてあり、個人で好きなものを自由に使える。ハンマーや大剣もあるし、トンファーやヌンチャクなどマニアックな武器もある。
顧問が浅く広くなため、上級者とは言い難く指導者不在なことは残念だが、それは一人でやれないわけじゃないし。掛け持ちが普通なので、自分の都合で参加出来るし、悪くない。女子部員がゼロというのが残念だけどね。新入生入らないかな。
見学が終わったので教室に戻る。とりあえず武器愛好会の入部届を記入した。
「あら、ユーリー様。見学はもう終わったのですか?」
「剣術倶楽部に決まってるから。それから新しい倶楽部を作る予定なんだけど、入ってくれる?」
「え? 何の倶楽部でしょうか?」
ゲームではそんなイベントなかったけど。ユーリー様は剣術倶楽部と馬術倶楽部の二つだったはずだ。セリカは倶楽部シーンがなかったからわからないけど、たぶん刺繍とかレース編みだったんだと思う。
「ダーツ倶楽部」
あ、はい。
いや、そんなに嵌るとは思ってなかったわ。
「あ、サオンも連れて行ってよろしいですか?」
「勿論。次は勝つ」
それはなかなか厳しいと思うよ。
「もう手続きは終わってるんですか?」
「部屋の準備を待っているところ。これ、入部届」
受け取って記入する。
特に勧誘活動をするつもりはなく、地味にやっていくらしい。興味がありそうな人がいたら誘って良いと言われたが、そもそも友達いませんから。
フェリシー様もコジローもダーツという感じではない。アルベール様とシルヴァン様は論外だし。
「どうせなら動く的も用意したいですわね」
お祭りの射的レベルでもいいから、的が動くと楽しいと思うんだよね。




