ランクアップ
四ノ月になり、入学式まであと少し。
相変わらず迷宮三昧の日々だ。私のレベルは五になり、オネエのレベルは三になった。なので、そろそろ依頼を受けてみようと思う。
さて。
少し遠出になるが報酬が高いものと、迷宮内で採取出来るけど報酬が低いものがある。どちらにしようかな。遠出は万が一ってこともあるし、やめておくか。入学式を欠席することになったらさすがに困る。特にお母様の耳に入るようなことがあれば……。考えるだけで恐ろしいわ。
迷宮の方は六階層にいるずんぐりした体形の飛ばない鳥型モンスターの尾羽。それも30㎝以上のもの。解体して尾羽の長さを測ってみないと、条件をクリア出来ているかわからない。しかし、肉は売れるし、個体数の多いモンスターなので、比較的容易だろう。
手続きを済ませるとさっそく迷宮に向かう。急ぎの依頼ではないので、期限は長い。
「それ、動きにくくない?」
オネエの作った新作防具は、丈が足首まであるスカートだ。布は太腿までぴっちりと張付いていて、膝下は外側に広がるマーメイドライン。上半身はドレープのきいた長袖で、これも袖口が広がっていて邪魔になりそう。色は全体的に濃い紫でラメが入ってキラキラしてる。
色っぽい魔女って感じだ。
「伸縮性がありますから大丈夫ですよ」
いくら伸縮性があっても万全に動けないと思うんだけど……。
布は防御力のある高いものを使っているので、ダメージの心配はしてない。
似合ってるし、六階層だと敵なしだからいいか。もっと下まで行くことも想定して、魔法スキル伸ばして後衛に専念してもらうか……せっかく神聖魔法があるんだし、回復支援中心に回ってもらう方がいいか……。
鳥だけを狙って四往復。尾羽30㎝はなく、結局翌日の午後にようやくゲット。二日間の収入は素材の売却で20000Hと、報酬で1500H。収入が低すぎる。しかしハンターランクは上がった。二人ともレベルが3を超えたのでギルドに申請し、ソロとパーティランク、それぞれFになった。ハンター証にはF-1、F-2とある。
これでEの依頼まで受けられるようになった。格上のパーティと合同ならさらに上、逆に格下のパーティと合同ならFまでになる。
帰りに教会により、オネエのスキルからサオンと被っている洗濯を外す。あとはひたすら魔法書を読んでもらおう。出来れば火魔法がいい。ビジュアル的にね。蝋燭をたくさん買い込んでおかないと。
テレビやゲームの類がないので、時間がなかなか潰せない。魔道具を作るにも材料がないし、今から揃えても出来上がる前に学校が始まるだろうし。学校が始まったら予習や復習、ハンター活動なんかで逆に時間が足りなくなると思う。その分を今を回せたら良いのに、回すものがない。
あー、ゲームしたい、漫画読みたい、テレビ見たい!!!!
サオンにマッサージをしてもらいながらうだうだ考える。
「サオンが迷宮に潜るとしてね、メイドとしてのスキルが減っちゃうけど、大丈夫なの?」
「専属じゃなくなる時に戻して頂ければ大丈夫です。できればずっと専属がいいですけど……」
「私としてはサオンにずっと専属でいてもらいたいんだけど」
私の専属でも、雇い主はお父様なので最終的に決めるのはお父様だ。
「ただスキル変えちゃうと、その間メイドとしてのスキルが成長しないじゃない? その辺りは大丈夫なのかなって」
あとでサオンが仕事をサボってたと難癖つけられても困る。そうでなくても姑に虐められそうな嫁キャラなのに。
「そ、それは……その時は、出来れば……口添えして頂ければ……」
「それくらいで回避出来るならいいか。サオンは残しておきたいスキルはある?」
「ええっと……マッサージと、投擲はそのままがいいです。他はスキルがなくても何とか……」
サオンのスキルはもともと九つしかない。その中から寮生活において必要ないもの、被っているものを解除しよう。魔法系スキルは諦めて、回避系と攻撃系を一つ。ハンター試験さえ受かれば攻撃力はなくてもいい。欲しいのは荷物を運ぶ人手。
忠誠を買ったオネエはともかく、サオンとは報酬を分けないと。その辺りの話し合いも必要よね。
オネエにはサオンの服を作ってもらうため留守を頼み、サオンと二人で教会へ寄った後、王都の近くの草原で向かう。新しいスキルの設定と練習のためだ。
ステップ、ジャンプ、ダッシュはすぐに覚え、伸びも良い。獣人は魔法系が不得意で、その代わりに身体能力が高いのだ。
あとは気配察知と隠身、短剣だ。メイドスキルが掃除と洗濯しか残っていない。一応軽業を覚えたらメイドスキルを戻すつもりだけど。
今日は短剣の練習がメインになる。試験の時以外は使う予定にないので、そんなに上げなくても問題ない。
数時間短剣の練習をしてわかったことがある。
「サオンは短剣向いてないね」
「すみませんすみません!」
涙目で謝るサオン、かわいい。かわいいけど短剣は向いてない。
「向いてないけど、試験に受かればいいだけだし、大丈夫かな」
サオンは不器用だ。
試合形式で短剣を使うと、熱が入るのか短剣を投げてくる。投擲ではなく、短剣の練習なのに。本番なら良い判断だと思うんだけどね。
しかもしっかり急所を狙ってくる。サオンの狙いは正確で、私そのうち避け損なって死ぬんじゃないだろうかと思う。
「短剣と別にスローイングナイフを用意するつもりだったんだけど、投擲と兼用で短剣を数本用意しようか。出費は多くなるけど、もともとそんなに戦ってもらうつもりはないし」
投擲と兼用出来る短剣なんてあるんだろうか……。よくわからない。
メイドをハンターにして迷宮へ連れて行っても、多少の危険手当は出てもそんなに給金は上がらないらしい。が、実家への口止めも兼ねて多めに払うことになった。
サオンの短剣スキルが20を超えたあたりで、武器屋に寄って寮に戻った。
そしてオネエ渾身の出来である、新しい服をサオンに着てもらう。
「戦うメイドさん……!」
素晴らしい。
特別な布とフリルをふんだんに使ったメイド服。膝丈のスカートからフリル付きの靴下に包まれた細い脚。頭につけたヘッドドレスもぴったりだ。これはやばい。
「攻撃はある程度弾けますが、耐久が落ちていきますから気を付けてくださいね」
「はい!」
サオンも新しいメイド服に嬉しそうにしている。
「明日ハンター試験を受けに行ってみようか。講習があるから迷宮に潜るのは週末になるから。オネエは学園が始まるまで迷宮で、学園が始まったらメイド服の追加をお願い」
「同じものでよろしいですか?」
「ううん。オネエの分だし、丈は足首までがいいかな? あとは任せるわ」
「あたしの分ですか……?」
オネエはちょっと驚いてるけどスルー。譲れないものってあるよね。
大丈夫、オネエも結構似合うと思うよ。
最低でもあと三人欲しい。メイド戦隊とか最強だわ。サオンとオネエの髪色は茶色と濃紺だし、次は明るい髪色のメイドさんが欲しい。かわいい系、セクシー系と来たら清楚系と真面目系?
スケジュールも決まったし、教材と生徒手帳でも読んでおこうかな。学園の見取り図もついてるし身分証、校則、学校行事なんかも載っていてなかなか面白い。ゲームではさらっと流されただけの行事もちゃんと載っている。
学園が始まったらゲームのキャラにも会える。全員がゲームのまま存在するかはわからないけど楽しみだ。特に主人公。主人公はプレイヤーが選択肢を選ぶので、キャラが定まってない。この世界で主人公はどういう風になっているのかなぁ。




