入寮
手続きや指輪の設定に時間が掛かるということで、先に昼食を済ませることになった。
私は違うものを食べるけど、サオンの昼食はパフェ。小食なサオンはパフェだけでお腹いっぱいになってしまうのだ。ありえない。
そのあとは素材を入れる袋を一つ買い、サオン好みのお店を冷かして歩いた。以前買い損ねた本も買う。
日が沈み始めて店に戻ると、手続きは終了していた。
主人である私も、指輪を受け取って填める。指輪は禁止された行動を取れないようにするためと、味方の攻撃魔法から身を守るためのものだ。設定された指輪を填めていれば、仮に攻撃魔法が当たっても、ちょっとした衝撃だけでダメージがないのだ。便利すぎる。
他にも私が他に漏らしたくない秘密を発言できないようにしたり、私に害する行動が出来ないなどの制約が課せられている。
ところで今日から一人増えるわけで、宿の部屋を変更してもらわないければならない。この場合、部屋は二部屋の方がいいの? それとも一部屋でいいの?
本来なら私は一人部屋で、使用人である二人が相部屋か性別で分けるらしいのだが、元々私の部屋とサオンの部屋も分けてなかったので、一部屋にまとめることになった。
「オネエの私物は何があるの? 足りないものは?」
「……オネエ、ってあたしのことかしら?」
「そう。オネ・エルレンマイヤーだからオネエ」
すごくぴったりだと思う。私はうんうんと頷く。それを見て、オネエとサオンは溜息を吐いた。なぜだ。
「まあ、何でもいいけど……。特に足りないものはないけど、武器や防具は持ってないわ」
「わかった。それは明日見に行きましょう。今日はスキルを考えて明日に備えましょうか」
オネエのスキルは裁縫、革細工、木工、染色、ヘアアレンジ、服手入れ、洗濯、化粧、神聖魔法、体術の十。
何かを減らさないと新しいスキルを覚えられない。私がしてもいいけど、やっぱり教会に行くべきかな。
「たぶん下に行っても七階だし、戦うのは私一人で充分なのよね。オネエは荷物持ちだけでいいから、ハンター試験に受かりさえすればいいの。弱いモンスターを三匹倒す程度なんだけど」
「それくらいでしたら鉈でも剣でもお貸し頂ければ充分だわ」
それは助かる。武器を買うにはお金が足りないから、試験は私の剣で受けてもらおう。
結局スキルの入れ替えはせず、剣だけ持って試験を受けた。推薦状は最低ランクの私でも用意出来たが、その場合、パーティに受け入れなければならないという規則があった。もともとその予定だったので問題ない。
オネエの講習は五つで、二日間ぎっしりあった。その間、私は黙々と迷宮に潜り、二日間で25000Hを稼いだ。まずは防具を整えよう。
「どれがいい? お金がないから安いのになるけど」
難しい顔で、鎧を睨んでいる。作りを見て、値段を見て、不満そうに眉根を寄せる。
「戦うことがないなら、防具は必要ありません」
「万が一ってこともあるし、一応あった方が良くない?」
「少しくらいなら大丈夫です。神聖魔法もありますし、それで駄目な傷は安物の防具があってもどうせ無駄です」
一理ある。
私は一応胸当てだけつけているけど、正直なくていいと思ってるし。
「じゃあ武器ね。武器はちょっとお金が足りないから、目標金額だけ見ておこうか」
半弓があると便利そうなんだけど、先にオネエの武器が欲しい。戦わないといっても護身用はあった方がいい。
「使いたい武器はある?」
服装的に鉄扇とか薙刀をおすすめしたい。
「将来的に戦闘に参加することになるのですか?」
「ただの護身用。参加してくれるならそれに越したことはないけど」
「故郷では狩りもしてましたし、嫌いではないので戦闘に参加することはかまいません。大した腕ではございませんが、武器はお任せします」
スキルを取ればある程度までは伸びるので、そんなに心配はない。昔は剣を使っていたそうで、外してあるスキルは22。あまり使ってなかったのか、才能がなかったのかわからないけど、かなり低い。
「薙刀がいいかな。15万Hか……十日あれば貯まるかな。結局戦うなら防具もいるよね」
防具もないし、得物は短いより長い方がいいだろう。一人より二人の方が稼げるはず。出費も増えているけどハンターとして使うもの以外は実家に請求書が回っている。お父様から何か言ってこない限り、許可されたということで、費用は実家から出るはずだ。オネエの忠誠代金も仕立て屋兼使用人ということにしてあるので、たぶん問題ない。だけどさすがに武器防具はまずいだろう。
オネエを連れての初迷宮。一人じゃなくなったので、スキル設定には気を遣わないといけなくなった。教会に行くフリは出来るけど、迷宮内で突然設定してないはずのスキルを使わないように気を付けないと。観察、気配察知、剣術、軽業、解体は外せない。あとは魔法を日替わりで入れ替えようかな。
初迷宮は、気配察知があるのでオネエを守りながらでも余裕だった。六階層で四、五回戦闘すれば二人の荷物はいっぱいになり、四往復し、一日で二万を超えた。
宿に戻ると実家から荷物が届いていた。ユーリー様からのバレンタインのお礼状と、誕生日の贈り物。それに即刻お礼状を書くように、というお母様からのお手紙。すぐさまお礼状を書いてサオンに預けた。寮に入ってもこの贈り物にお礼状を返すという習慣は続くのだろうか。結構面倒なんだけど。
順調に三日間迷宮に潜り、目標金額に到達。薙刀を買った。和服に薙刀。素敵だ。残念ながら明日は入寮予定なので、お披露目は明後日だ。スキルをすぐに設定出来るように、覚えるまで素振りをしてもらっておこう。
入寮は業者に頼むことも出来るが、大した量ではないので三人で済ませてしまうことにした。卒業した三年生の部屋が、そのまま新一年生の部屋になる。指定された部屋に宿から荷物を運びこむ。私の部屋の両隣に使用人用の部屋があり、ベッドと小さなテーブルとイスしかない、狭い部屋だ。
オネエの私物のソファは、私の部屋に置いて使ってもらう。作業をするのも私の部屋だ。使用人用の部屋では狭すぎる。
台所とお風呂やトイレも各部屋についていて、正直日本の家とそれほど変わらない造りで安心した。実家の規模を考えればかなり狭いが、私にはこれで充分。
「あまり入らないですね……」
サオンが困り顔で呟いた。見ると持って来ていた服だけでクローゼットの半分が埋まっている。
「あと制服だけでしょ? 服を増やさなければ大丈夫よ」
大体制服を着ていれば大丈夫だ。実家とは違い、夕食用のドレスなど制服で充分。
荷物を運んだり片付けたりしている間に、制服や教材、生徒手帳などが届いた。夜の暇な時間に目を通しておこう。門限までは迷宮で稼いでおきたい。
片付けは一日で終わったので、翌日は教会に寄り、オネエのスキルを入れ替えた。とりあえずサオンと被っているヘアアレンジを外し、薙刀を入れた。これで様子を見る。
モンスターが複数出た場合はオネエに少し振り分けて狩って行く。単純に手が増えるので楽になるかと思ってたけど、実際は変わらないというか、逆に面倒になった。一人ですぐ終わる戦闘なので、振り分ける手間が増えただけなのだ。それに気付いてからは、わざと挟まれるような位置で迎え撃つことにした。これなら効率的。もっと下に潜ってモンスターが強くなると出来なくなるかもしれないけど。
薙刀登場初日は、五往復で三万Hになった。貯まったお金で布や革を買って、防具や服を作ってもらいたい。普通の店にないような、かっこいいデザインにする。今から楽しみだ。




