ハンター登録
二ノ月下旬にサオンを連れて王都に到着した。当初専属はセバスチャンということになっていたが、ユーリー様の手紙を差し出し、サオンに変更してもらった。セバスチャンが嫌なんじゃないです、ユーリー様がサオンとダーツしたいとおっしゃってますし、ね。
使用人は二人まで連れて行けるけど、別に必要ないので断った。食事は出るし、寮室の掃除や洗濯は魔法で出来るし。学校は制服でドレスとは違うので、手間もかからない。
入寮日は三ノ月中旬以降なので、まずは宿を取る。東ノ島通りに近い宿にした。そしてまずは念願のハンター登録だ。気合を入れてギルドへ向かう。サオンは登録しないのでお留守番。
受付でダーヴィトお兄様に書いてもらった推薦状を渡す。聞いていた通り、訓練場で簡単な試験があるそうだ。
試験官に見守られつつ、四足歩行型のモンスター三匹を狩る。倒せれば合格で、戦い方をみて必要な講習を告げられる。ここまで弱いモンスターだとこの新人、出来るっ……!みたいなイベントがなくてつまらない。
私が受ける講習は三つだそうで、今日の午前に一つ、残り二つは明日。一日で終わらせたかったが、一人で受けるわけではないので仕方がない。午後は入れてくれそうな臨時パーティ探したり、依頼の下見でもしよう。本当は依頼を請けたいけど、手続きは明日の講習後だ。
最初の講習はハンターの心得。ハンターとしての基礎知識やギルドの使い方を習うだけの簡単なものだった。明日は迷宮と罠に関する講習なので楽しみだ。新しいスキルが覚えられそう。
掲示板は壁一面にあり、かなりの面積だった。入口から近い掲示板からどんどんランクが上がっていくようだ。登録したての私はもちろん入口側。依頼の数がすごく少ない。薬草採取とかないし、ゴブリンの巣もない。害虫駆除ならあるけど……。
先に衝立になった掲示板、メンバー募集を見てみよう。期待してなかったけど、臨時はない。やっぱり直接声を掛けるしかないか。報酬はいらないので勉強させてくださいって感じ? 優しそうな人か女性に声を掛けてみよう。
ちょうど優しそうな男性二人と女性二人、同じ年頃の少女一人のパーティがいるし。
声を掛けて、そして速攻断られた。
「貴族の方はちょっと……問題になっては困りますので」
「問題っていうのは?」
貴族NGなの? ダーヴィトお兄様もクリスさんも貴族なのに?
「たとえば貴女が怪我をした場合、責任が取れません」
「そこは自己責任ですので、責任なんて」
「最初はそう言ってても、後で文句をつける人もいます。あぁ、貴女のことを言ってるわけではないのよ? でもそういう人は大勢いるわ。それに貴女が良くてもお家の方が何とおっしゃるか。だから貴族の方は、自分がパーティリーダーになるか、リーダーが自分よりも格上の方じゃないと難しいと思うわ」
残念ながら言わんとすることはわかる。大人しく引き下がろう。いい人だ。
「教えていただき、ありがとうございました」
一礼して立ち去ろうとすると、別の少女が鼻で笑った。
「ナビールにしか入れない貴族なんて役に立つわけないわ。ハンターなんてやめて大人しくしてればいいのよ」
はぁ? なんだこのクソガキは。
桃色の髪をツインテールにしていて、顔だけ見れば結構かわいい。睫毛長い。いや今の私も睫毛長いけどさ。
「サービオに入る実力もないなんて、才能ないのよ。諦めた方がいいわね」
「はっ。学園でしか実力が量れないなんてお粗末な頭ですこと。その辺りのモンスターと脳みそ取り替えてあげましょうか?」
「なっ!?」
「それではごきげんよう。御嬢ちゃん」
私より拳二つ分低い少女の頭を、乱暴に撫でてやった。もとい揺さぶってやった。これで少しは機能するといいね。何か叫んでたけど気にしなーい。
しかしトラブル防止に貴族は入れないって言ってたのに、暴言吐くって大丈夫なの? 私が知らないだけで、同位の貴族だったのかも。
出鼻を挫かれて意気消沈したので、東ノ島通りでおやつを買い込んで宿に戻った。今日はサオンとお茶をしてマッサージしてもらって癒されよう。
翌日の講習は、どちらも教材に沿った進行で、難しいことはない。しかし実地で教えてもらえるわけではないので、教材通りとはいかないだろう。本来なら先輩に手解きしてもらうようなことなのだと思う。いっそハンターを雇ってみようかなぁ。ただハンターを雇うとなると資金不足だ。実家のお金を使うとこっそりハンターになったことがばれてしまう。時間は掛かるがダーヴィトお兄様たちが王都に来ることを期待しよう。
昼過ぎに講習は終わり、ハンター証を発行してもらう。名前や年齢などの個人情報やランクが記されている。ランクはソロ用やパーティ用などに分かれており、備考にも色々書き足されていくようだ。思ってたより複雑らしい。
メンバー募集は変わりない。何組かのパーティに声を掛けてみたが、昨日と同じで成果なし。態度が悪い人はいなかったけど、大体似たようなことを言われた。自分より位の高い貴族を探さないと、ソロ活動しか出来ないかもしれない。あとは金を積んで雇うかだ。
依頼も興味を引かれるものがないので、今日は迷宮に行ってみよう。
迷宮は入口に職員が待機している。職員から地図を買い、中に入る。
不思議な空間だった。壁や床を触ると岩のようにごつごつしていて固いが、色が薄緑なのだ。迷宮は一般に出回っているものと少し違う魔石で出来ていて、硬度が高く、崩れない。普通の武器ではまず傷付けられず、魔法も吸収する。この魔石は国の所有物なので、持ち出しは禁止されている。
地図は地下の一階から五階までのものにした。罠もなく、強いモンスターもおらず、初心者向けの階層だ。大掛かりな魔方陣で五階毎、希望の階層に降りることも出来る。有料だし初めてなので、まずは歩きで降りてみよう。地図で階段の場所を確認してから歩き出す。
階段付近でやっとモンスターに出くわした。人間の赤ん坊くらいの大きさのコオロギのようなモンスターだ。コオロギって大きくなるとかなり気持ち悪い。虫は苦手じゃないからいいけど、あまり触りたいものでもないな。
剣を構え三匹の虫の頭を落とす。このモンスターは食用でもないし素材もない。迷宮のモンスターは普通のモンスターと違い、数時間放置すれば消えてなくなる。一応邪魔にならないように、蹴って隅に追いやっておく。
迷宮内のモンスターは生態系も確認されておらず、モンスターはどこからともなく現れるというし、すごくゲームらしい仕様だ。どうせなら解体しなければ素材が手に入らない、ではなく、ドロップという形にしてくれればお手軽だったのに。戦闘は好きだけど、解体は面倒だし好きじゃない。
地下五階まで順調に下りることが出来た。各階一、二回ほどしかモンスターに遭遇していない。しかも素材はほとんど取れていないので、正直稼ぎにならない。これは駄目だ。
五階には特殊な魔道具で作られた休憩所がある。休憩所には転移の魔方陣と、二組のパーティがいた。一組はテントを張っている。
サオンに夕飯までに戻ると伝えているので、今日はここで終わり。転移の魔方陣は上りに限り無料で使うことが出来るので、それで戻る。これは死傷者を減らすための措置らしい。
初めての魔方陣は気持ち悪かった。揺れが激しい。時空魔法を900まで育てれば転移の魔法を覚える。こちらの方が揺れないと聞いたので早く覚えたい。
迷宮の入口で素材の清算をして終了。迷宮素材は引き取り品以外の買い取りは迷宮入口のみが規則となっている。国営なので仕方ないね。
本日の収入は500H。地図が1000Hだったので、完全に赤字だ。時間は三時間で、時給換算しておおよそ167Hか。ないな。今の私には寮と仕送りがあるから良いけど、ゼロからスタートの人はやっていける金額ではない。




