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ゲーム風異世界でハンターライフ  作者: クドウ
ハンターになるまで
25/110

ジャーヴォロノク領

 



 七ノ月下旬。馬車に揺られジャーヴォロノク家のお屋敷に到着した。さすがにサオンだけでは不安だったのか、セバスチャンも一緒だ。始終セバスチャンにびくびくしてたサオンがおもしろかった。厳しそうだし無表情だし怖いんだろうなぁ。

 手土産を渡した後、案内された部屋でくつろぐ。長時間の馬車移動で疲れただろうからって、ありがたい。


「そういえばセバスチャン。さっきは何を渡したの?」

「領内で作られた生ハムと東方産のカシミアです」

「ふぅん」

「もちろん最高級の品です」


 そりゃあそうだろう。格上の相手に変なものは渡せまい。


「ナシカ様のご実家の商品の品質は大変素晴らしい」

「え?」


 ナシカお母様の実家? 初耳だけどどういうこと?


「もしかしてご存じないのですか」

「存じませんね」


 誰も教えてくれなかったからな! もちろん訊く気もなかったけどね。


「ナシカ様のご実家は世界有数の商家です。世界各地の名産品を取り扱っており、素材や武器防具衣類、食品酒類、他にも揃えられないものはないと言われる程。今はナシカ様の御父上が当主です」


 えー……。ナシカお母様、商人の娘って感じ、全然しないんだけど。気位高いお嬢様がちょっと格式の低い貴族の家に嫁いで来ました、的な。

 私の変な顔に気付いたのか、セバスチャンは続ける。


「商家として貢献し、五代前に第八位貴族となられました。そして少しずつ貴族位を上げていき、二代前に第四位貴族となられました」


 うんうん、商人というか貴族って感じだもんね。しかし要するに、


「口さがない者は成り上がり商人風情などといいますが……」


 だよね。

 

「そもそも貴族はすべて元を糺せば成り上がりです」


 それはそうだ。

 貴族どころか王だってそうだ。初代の王はモンスターを蹴散らし、この世界を開拓したリーダー格の青年だとされている。他の貴族はそのとき貢献した者で、その後も活躍した者がだんだん貴族となり、逆に何もしなくなれば平民になる。貴族も王も所詮は同じ人類。ただの貢献度の差でしかない。まぁその貢献度が大切なんだけどね。


 夕食の席を挨拶と無難な会話で何とか凌ぎ、早々に部屋に篭もった翌日。ユーリー様にダーツに誘われた。もちろんサオンも一緒にだ。

 なんとダーツ専用の部屋まで作ってしまったらしい。どんだけはまってるんだ。金持ちすげぇ。ダーツ専用の部屋というと、何となく日本のイメージで暗い部屋にライトアップされた感じを思い浮かべるが、そんなことは全然なかった。白い壁に大きな丸い標的が掛けられており、休憩用のソファやテーブルがある、シンプルな部屋だ。


「ダーツはレメス・ベアートゥスに造ってもらった特別製なんだ」


 ユーリー様はレメス・ベアートゥスが好きだねぇ。私には違いがよくわからないけど、人気があるみたいだし良いものなのかな?

 勝負前に少し慣らしのために投げさせてもらう。

 あ、これはまずいかもしれない。 このダーツ、スキルが反映されるみたいだ。

 どうしようかな。私の投擲スキルはそこそこ高いから、自動修正が入るのだ。まだ十四歳の私には、スキルがないことになっている。ユーリー様に気付かれるかどうかわからないけど……。

 うーん、危ない橋は渡るまい。スキルは解除しておく。ただこうなると、スキルを持っている二人には絶対に勝てない。もともとサオンには勝てないけどさ。


「このダーツはスキルが反映するタイプですか?」


 スキルがない人があるかないかを気付けるわけがないので、わかってるけど聞いておく。するとユーリー様はきょとんとした顔で目を瞬かせた。えぇー……。


「ユーリー様は投擲スキルをお持ちでしょうか?」

「もちろん」


 もちろんなんだ……。


「そうなりますと、このダーツがスキル反映するタイプの場合、ユーリー様とサオンはスキルが反映します。ですが、私はスキルを持っていないので、反映しません」


 小さく頷くが、よくわかってなさそうだ……。


「反映しないタイプなら私の家で行った時と同じように勝負出来るのですが……。反映するならば、私の腕前では勝負にならないと思うのですが、よろしいでしょうか?」


 サオンくらい才能があれば違うのだろうけど、私程度の腕だとスキルを設定した人に勝つのは難しい。スキルが絶対ではない。でもスキルは強力なものだ。

 とりあえずやってみることになった。結果は予想通り、私が最下位。でも思ったよりユーリー様との差は少ない。これなら勝ちはなくとも善戦出来るかも。

 昼食やティータイムを挟みつつ、それでもほとんどの時間をダーツに費やした。中でもサオンによるダーツ講座が面白かった。言葉で説明出来ないサオンの擬音による感覚説明。戸惑うユーリー様。焦るサオン。あぁかわいい。

 最終的に三回だけユーリー様に勝てた。スキルなしでこれは善戦だろう。今日の分がパラメータの上昇に繋がらないことがもったいなく思えるけど。

 ユーリー様が次はスキル反映しないタイプを作ってもらうと言っていた。サオンいわく、どうやらスキル反映なしの方がパラメータ上昇率が高いらしい。


 翌日はジャーヴォロノク領で一番栄えている場所を案内してもらった。屋敷から徒歩二分の距離なのに馬車出動。何という……。

 大通り沿いの店にしか立ち寄らないので、ほとんど馬車移動。すごい。いつもこんな移動の仕方してるの? もしかして貴族ってこんなもの? アデュライト家は緩すぎなの?

 ジャーヴォロノク家の方が位は上だけど、街の栄え方はイマイチだ。ちょっと規模が小さい。店の数も人の数も少ない気がする。

 何よりアデュライト領の街と違う、決定的なこと。それは屋台がないことだ。なぜだ。なぜなんだ……。いやあっても食べられなかったと思うけど。

 昼食は高級そうな店に連れて行かれた。ちっ。もっとB級グルメな店に行きたかったのに。ものすごく残念だが、顔には出さないように微笑む。サオン、何で怯えてるの。

 それにしてもこの甘辛ソースは相変わらず美味。あ、おかわりください。

 

 夕食はまたお屋敷で頂いて、夜は試験の話や王都でお互いが行った店の話で盛り上がりつつ、カードゲーム。私の一押しはもちろん東ノ島通りだが、ユーリー様は行ってないらしい。もったいない。とはいえユーリー様は元々日本人なわけじゃないし、気に入るとは限らないけど。

 明日はまたダーツをして、昼前には出発だ。帰りは郊外の葡萄農園を訪問する。これはナシカお母様からの指令で、買い付けを頼まれているそうだ。買い付けってアデュライト家じゃなくて実家の方? お母様があまり家にいないのは実家で何かしてるからなのかな。


 

 葡萄農園は畑に行くわけではなく、その隣にある作業所を訪れた。残念なことに収穫はまだ始まっておらず。ただお母様の買い付けは葡萄そのものではないようなので関係ないらしい。

 セバスチャンは担当者と話しているので、私とサオンは作業所内の見学。若い女性のスタッフさんが色々説明してくれた。

 なんとここでは、あの甘辛調味料を製造しているらしい。原料が葡萄とはまったく思えない味なのに……。

 さすがに作業中の空間には入れなかったが、遠目には見ることが出来た。調味料の製造過程は大きく分けて四つ。原料を細かく砕き、混ぜる。次に加熱。そして漉す。最後に熟成。今は加熱中らしい。


「これが原料です」

「これは……干しブドウとほしの実、ですか?」


 私が食べたほしの実とは色が違うけど。


「えぇ。干しブドウは去年収穫したブドウを使用したものです。ほしの実は夏のものですね」

「夏のもの?」

「この調味料では夏のほしの実だけしか使いません。それが味の秘密でもあるのです」

「ほしの実は変質植物ですからね。詳しいことは後で説明致しましょう」


 セバスチャンだった。話はもう終わったのだろうか。


「セリカお嬢様、何か欲しいものがあれば購入いたしますが」

「この調味料が欲しいです」


 あの甘辛調味料は美味しい。お気に入りだ。

 セバスチャンに調味料を買ってもらい、作業所を後にする。馬車には先ほどよりも大きな箱二つ分の荷物が増えている。

 帰りの道中で変質植物についての説明を受けた。ほしの実は収穫の時期によって味が変わるらしく、そういうものを一般的に変質植物と呼ぶそうだ。夏の味はなかなかスパイシーらしい。前に食べた時は秋で、その時はチョコレートだった。春は甘くて、冬はコクがあるらしい。さすがゲーム世界。不思議な食物だ。

 ほしの実以外にもこういった変質植物はあるらしく、図鑑を見れば載っているということなので、帰ったらさっそく探してみようと思う。なお植物については学園の授業を受けることが出来るそうだ。楽しみだなぁ。


 帰宅後すぐにお礼状を書き始める。挨拶に始まり今回のお礼と、王都へ引っ越したら一緒に観光しましょうというお誘い。それからダーツが楽しかったのでまたサオンと三人で勝負したいですね、一度くらいサオンに勝ちたいですね、と煽り。トドメにサオンを私の専属にして学園に連れて行けたらいつでも勝負出来るのに、と書いておいた。

 そして数日後、期待通りのお返事にほくそ笑むのであった。くふふ。






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