シーズの村
今回受けた依頼はドクハネウオの討伐兼回収。魔動車で二時間くらいの漁村・シーズが目的地だそうだ。
「ドクハネウオとはどんなモンスターなのですか?」
道中は暇なので、お兄様に質問を投げかける。魚介類の図鑑も買えば良かったかな。次回は買おう。
「そうだなぁ。ドクハネウオはこれくらいの大きさで、飛び跳ねる」
お兄様は両手で中型犬くらいの大きさを作った。思ったよりでかいな。
「素早くて突っ込んで来るから、結構危ないかな。毒も持ってるし」
「ですから、セリカ様は安全なところで待っていてくださいね」
は?
ダーヴィトお兄様の顔を見る。目を逸らされた。
「私も参加します。ハンター登録はしていませんが、狩りは自由でしょう? 別に報酬はいりませんし、回収したものもすべて渡します」
「ですが……」
モナさんが言い淀む。
「ドクハネウオはかなり危険なモンスターだ。さすがに護身が出来る程度の一般人には危なすぎる。最悪毒で死者が出ることもあるんだ」
「ダーヴィトお兄様、クリスさんはこうおっしゃってますが、私は参加したいです」
じっとお兄様の目を見つめる。
「うっ……」
「私にはそのドクハネウオを狩れませんか?」
「そんなことは……ない……けど……」
「怪我をしても問題ありません。回復魔法だってあるでしょう?」
ダーヴィトお兄様とモナさんは回復魔法が使える。私だって軽度の傷を治すくらいの回復魔法は使えるし。
「毒の症状はかなり重い。解毒剤もあるが、効くまでに時間がかかる」
「大丈夫です、問題ありません」
そもそも私は毒無効である。大っぴらに出来ないことだろうし言わないけど。
「でも……」
まだ渋るのか。私は盛大に溜息を吐いた。お兄様の目を見据える。
「お兄様の使命は?」
「え?」
「天使が言っていたでしょう? 私のサポートが使命だと。違いますか?」
「うっ……違いません……」
うわ、天使つよい。さすが信者。お兄様がサリィさん以外のパーティメンバーを説得し終えた後は、ドクハネウオの説明を出来るだけ詳細に聞く。そうこうしているうちに目的地、シーズ村に到着した。
ドクハネウオは群れで生活しており、定期的に住処を移る。大抵は人のいない場所に住処を作るらしいが、ごく稀に人里近くにやってくることもあるらしい。この漁村には年にニ三回、迷い込んでくるらしい。漁で生計を立てているので、ドクハネウオは障害になる。自分たちで処理するにも毒もあり攻撃力も高いしで大変なのだそうだ。そこでハンターに依頼を出す。依頼料は高額だが、それでもドクハネウオが大量に手に入ることもあり、双方に損はない。
「えっ、お嬢様も参加すんの? ちょっと大丈夫なの? 後で問題になってもあたし知らないわよ?」
サリィさんは賛成はしないけど反対もしないと。
「セリカは俺が責任もって守るから」
「要らん」
守られながら戦うとか遣り難いじゃないか。ショックを受けているお兄様を尻目に移動する。わお、いるいる。浅瀬に飛び跳ねる大量のドクハネウオ。
一応魚なので、水分がないと生きられない。よって村の内部までは侵入しないので、村人は安全だ。他の依頼を受けたハンターたちとともに浅瀬に入る。わかっていたことだけど、動き難い。対象は数が多くばらけているので、それぞれ狩っていく感じだ。この時ばかりはサリィさんも剣に持ち替えて攻撃するらしい。ドクハネウオ相手に魔法は使い辛いとか。もちろん自身を補助魔法でばりばりに強化して戦う。私にも補助魔法を掛けてくれた。
私はカウンター狙いで剣を構え一匹ずつ斬り捨てていく。回収は全部倒してからだ。剣の切れ味は上々。切れ味の良い刃物って楽しいよねぇ。気持ちいい。
ドクハネウオは口先をドリルのように回転しながら突っ込んで来る。攻撃を食らえば三割程度の確率で毒を食らってしまう。出来る限り避けながら切り込むが、中々のスピード。一匹二匹ならともかく、複数匹や方向がばらけていると攻撃を受けてしまう。そのおかげでわかったことがある。私の毒無効は、食らった毒の種類や性質がパラメータと同じようにわかる。将来食うに困ったら毒感知人間として活躍出来そうじゃないか。いやハンターとして大成するけどね?
「セリカッ!」
毒について考察していたら、ドクハネウオが高い位置に突撃して来た。つまり顔。触れてみると指に血が付いた。
「……」
「セリカ、大丈夫か!?」
「……えぇ、大したことはありません。ですがそろそろ終わりにしませんか? 私のこの美しい顔に傷をつけた魚類など、早々に片付けてしまいましょう」
数匹ずつなんて埒が明かない。まとめてかかってくればいいものを。そうしたら大技で仕留めるのに。
「かかってこいやぁっ! クソ魚類がぁっ!!」
あー楽しい。超楽しい。一斉に向かってくる魚類を、長剣の技で斬り捨てる。技を使うのは初めてだが、中々便利。おもしろいほど体が動く。完全なる自動。これはあれだな、技の便利さに慣れた奴はその隙を狙われるな。私なら狙うし。自動ではなく、自身の手で技を使えるようにならないと頂点は目指せない。今はまだ自動だけど、いつか本当の意味で使いこなせるようにならないと。
すべて倒し終えると、レベルがあがっていた。ようやくだ。今までかなりの数を狩って来たはずなのになぁ。
「お兄様! レベルが上がりました!」
嬉しい。ようやくレベル3だ。
「さすがセリカ! レベル上がるのが早いね!」
と、手放しで喜んでくれる。お兄様はちょっと身贔屓が過ぎないか。まぁ嬉しいけどさ。
ドクハネウオをすべて回収し、村の集会所に運び入れる。これから捌いて販売用や料理用、素材用にわけるらしい。私も手伝わせてもらおう。
ドクハネウオを捌く。腹に毒袋があるのでそこだけ気を付ければ良いそうだが、素人の私が手伝っても大丈夫なのだろうか。私自身は毒が効かないけど、他の人はそうじゃないんだし。
「慣れない者が捌いたものは、火を通すので大丈夫ですよ」
私が不安そうな顔をしていたのか、気付いた村人女性が教えてくれた。なるほど火を通せば毒性は消えるのね。一安心だ。
ドクハネウオのドリル部分の口先や大型のものの牙や鱗、毒袋は素材に、身はもちろん食材になる。今日の宴会で村で消費する分と、明日の朝王都で売られる分とで分けられた。私が捌いたドクハネウオは包み焼きへと姿を変える。魚料理は初めてだったからか、料理スキルがかなり上がった。これでもうすぐ熟成魔法を覚えられる。
ドクハネウオの収穫があった日は村人総出で宴会となるらしい。私たちも他のハンターたちも招かれ、夜通しドクハネウオや他の海産物を使ったご馳走を味わった。




