受験当日
いよいよ試験当日。昨晩ミックスカツ定食を食べた私に不可能はない。ちなみにミックスカツの内容はロースカツ・ヒレカツ・エビカツだった。久々の白米はやっぱり美味しいね。
問題の筆記試験、地理、歴史、算術、法律、生物。勉強の成果が遺憾なく発揮されたと思う。燃え尽きたぜ……。
筆記が終わると休憩時間。持参したサンドイッチを食べる。やっぱりカツサンド。このあと魔力測定と面接があってそれで試験は終わりだ。茶、赤、青、茶、金、紫、黒、茶、赤、茶、金、銀……。食べながらカラフルな頭をぼんやり眺めつつ暇を潰す。攻略キャラが見当たらなくて残念だ。んー、二十人もいないみたいだし結構早く終わりそう。
魔力測定は面接会場に入ってすぐ行われた。私の数値は213と、わりと高い方らしい。異常に高くて驚かれるというパターンにはならなかった。残念。
面接はグループ面接ではなく個人面接で、面接官は中年の学園長と二十代から三十代の男女の教師四人。面接の内容は定番の志望動機から始まり、テストは出来たかとか、どれくらい勉強したか、どの教科が好きか嫌いか、何系の魔法に力を入れたいかなどなど。筆記試験の内容も色々聞かれたので、これなら不正するとすぐにバレそうだ。しかし答案見ながらの面接はやめてくれ。無駄に緊張する。
最近興味のあることは?と聞かれたので、魔道具の話をした。魔法にも関係しているし、ウケが良さそうだと判断して。そして何故か脱線して魔動車の話になり、魔動車好きの面接官と熱く語り合ってしまった。心なしか他の面接官の目が冷たかった気がする……。
合格はその場で言い渡された。基本不合格にならないと聞いていたけど、これで一安心だ。クラスについては全員の試験が終わってから編成されるのでまだわからないけど、受験勉強からは解放された! 私は自由だ! 軽い足取りで宿に戻った。
夕食までの空き時間、王都でしか味わえない特別な甘味があるとサリィさんとモナさんがそのお店に案内してくれた。
おすすめである甘味を三つ注文。まもなく運ばれて来たそれは、ガラスの器に綺麗に盛り付けられている。
「これが王都名物――パフェよ」
なるほど。料理のスキルで覚える冷却魔法も、水魔法のスキルで覚える氷系の魔法も、パラメータがかなり高くないと覚えられない。つまり凍らせて食べる系のものは使い手が少ない分、貴重なのだろう。しかしゲーム内でかき氷を見た覚えがあるが、あれも実は希少価値が高かったのだろうか。
「このクリーミーなバニラアイスが最高!」
「濃厚なチョコレートのアイスクリームも最高です……」
そういえば、パフェなんて三年ぶりくらいかも。すごく美味しいってほどではないけど、まぁ、普通に美味しいかな。
「王都に来たら絶対にこのお店に来ることにしてんの。っていうかこのお店に来るために定期的に王都に来るようにしてんのよ。あーパフェ最高……」
そんなにか。
パフェを食べ終わった後は、水着を見繕い、クリスさんとお兄様と合流して夕食となった。今日は東ノ島通りにある鉄板焼きのお店だ。この東ノ島通りはその名の通り、東ノ島の名物が並ぶ。つまり日本の食べ物を食べたければここに来れば間違いないのだ。
各テーブルに置かれた炭火で肉を焼く。日本と違うのは主に肉の種類。一般的に牛・豚・鶏だろうが、この店は他にモンスターの肉も各種取り揃えてある。今は亡きレバ刺しもあり、大喜びで注文した。塩とごま油の組み合わせ、最高。
モンスターの肉は各種一人前ずつ頼み、食べ比べしてみた。クリスさんにそれぞれのオススメの調理法や生息地を教えてもらったり、オススメのお店を教えてもらったり。未成年なのでお酒は飲ませてもらえなかったけど、かわりに白いご飯を二杯食べたので満足だ。
翌朝。お兄様とクリスさんが王都を案内してくれることになった。ちなみにサリィさんはギルドで依頼を物色、モナさんは教会へと別行動。モナさんは神官登録をしているので定期的に教会へ行かなければならないらしい。神官登録は神聖魔法を使える人が任意で行うものだが、色々と義務が発生する代わりに優遇されるものも多々あるとか。私も学園を卒業したら考えてみよう。
まずは宿から一番近い位置にある、魔道具屋に寄った。領地にあった魔道具店の五倍くらいありそうな広さ。さすが都会。なのに肉を焼く魔道具はない。特注するしかないのか……。
魔道具は用途別に並んであるが、例外もあった。ユーリー様の言っていたレメス・ベアートゥス。専用のスペースが設けてあり、見ている人も多い。人気があるみたいだ。今のところ私には違いがまったくわからないけどね。魔道具製作か観察が上がればわかるようになるだろうか。結局何も購入せずに終了。
次は数軒先の本屋に入った。各種魔法書がそろっているが、今回の目的はそれじゃない。料理書だ。
「家庭料理ならこれ。野外料理ならこれがお薦めかな」
クリスさんお薦めの野外料理の本を買う。野草の図鑑とか茸の図鑑も合わせて買おうかな。茸は素人にはおすすめ出来ないと言われたけど、私には秘密兵器があるから大丈夫。モンスター肉図鑑もいいね。部位別おすすめ調理法とか楽しいじゃないか。
恋愛小説や冒険譚もあった。斜め読みしてみたけど、買うほどではないかな。実用書の方が大事だ。
「野外料理の本を参考に、保存食を買ってみようか。品揃えの良い店があるんだよ」
これまたクリスさんお薦めのお店に案内してもらった。調味料や乾燥ハーブ、乾物や瓶詰などが並ぶ。缶詰はなく、生物も置かれていない。
「この店は地方食材も置いてあって面白いよ」
「セリカの好きな東ノ島のもあるね」
おぉ、確かに! 醤油に味噌、昆布に鰹節、米。ソースやケチャップなどもあってテンションあがる。全部欲しい。いっぱい欲しい。よし全部買う。お兄様が。
「ダーヴィトお兄様、これを買って帰ったら料理長に東ノ島料理、作ってもらえるかしら?」
「たぶん大丈夫だと思うよ。いっぱい買って帰ろうか。町には売ってないからね」
「はい!」
東ノ島特産以外も、クリスさんに料理書を参考に色々教えてもらって購入。帰りはこれらの材料を使って料理させてもらおう。
昼食はまた屋台で。今回はフォーと春巻き、焼き餃子。日本と変わらない食べ物があって本当に助かる。さすが日本製のゲーム。食べ物の充実してない世界に行った人は大変だろうなぁ。テレビとか煙草とか嗜好品もそうだけど。
あ、初エルフだ。ドワーフもいる。さすがファンタジー……。ゲームでは出てこなかったけど、この世界にはいるんだね。妖精とかもいるのかな。
「いたいた。良い依頼見つけたわよ」
サリィさんだった。麺の入った器を手に、空いている椅子に座る。
「はい、これ」
クリスさんが渡された依頼書を読み始める。私も後で見せてもらおう。とりあえず食べるのが先だ。
「お、いいな。ちょっと出発が早いけど」
「まぁね。でもどうせこっち引っ越してくるんだし、観光はその時でいいでしょ」
「そうだな。……セリカ、あんまり時間がないから、他に行きたいところがあったら急いで行こうか」
行きたいところか。特にないな。食べたいもの食べたし、米も醤油も買ったし。どうせ半年後には引っ越してくる。
そういうわけで教会にモナさんを迎えに行って、すぐに出発することになった。




