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ゲーム風異世界でハンターライフ  作者: クドウ
ハンターになるまで
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神様の暇つぶし

 



 夢の中にいる。

 私は夢を見ている時、夢だと分かるタイプだ。割と鮮明で、色もあるけど、香りはない。でも起きたら半分以上忘れてると思う。

 それはひとまず置いておこう。夢の話に戻る。

 私は白い空間に浮いている。トランポリンよりももっと軽いものの上を歩いているかのような浮遊感。月面を歩いてみよう、という体験をした時のことを思い出す。もちろん本当の月面を歩いたわけではない。ただのアミューズメントだ。

 ふわふわと歩く。上下左右、自由に動けるので、意外と楽しい。でも景色は欲しかったな。全面白って何だか不気味。沖縄でスキューバダイビングをした時も同じようなことを思った。


「こんにちはー」


 目の前に天使が現れた。金髪巻き毛に碧眼の小さな子供が、白い羽をぱたぱたさせている。かわいい。


「こんにちは?」

「はじめまして、ぼく、神の御使いのミツカです」

「あ、はい。はじめまして、西園にしぞの瀬梨香せりかです」


 夢の中で意識を持って会話をするのは初めてかもしれない。いつもはもっと無意識に動いている感じがするのだ。もしくは自動人形の中のような。


「えっとですね、今回お呼びしましたのは異世界転移のお誘いでして」

「異世界転移?」

「はい。漫画でも、ゲームでも、映画でも、好きな世界にぽーんと」

「はぁ」

「あ、その顔は信じてませんね?」


 信じるも何も。変な夢。


「ご希望の世界とこちらの適正判断で、良い世界に転移出来ますよ? 今なら多少のサービス特典お付けしますし、楽々勝ち組ですよ? うだつの上がらないフリーターから卒業ですよ?」

「うだつがあがんなくて悪かったな。楽しいからいいんだよ」


 つい口が悪くなってしまった。子供相手に大人気ない。


「服屋とケーキ屋ですもんね。楽しいでしょうけど、ただのバイトですし、将来性ありませんし」

「本当に失礼な子供だな」

「そこでですよ! 異世界転移で正社員!」

「はぁ」


 いい加減目覚めたい。


「正社員……は、まぁ嘘ですけど」

「嘘なのかよ!」

「あれです、戦えますよ?」

「え?」

「戦いのある世界へ行けば、戦えますよ? 小さい頃の夢を、叶えたくないですか?」

「詳しくどうぞ!」


 テンションが一気に上がった。楽しい夢が見れそうだ。


「魔法と剣の普及したモンスターのいる世界、なんてどうですか? 魔法と剣を駆使してモンスターを倒す! ダンジョンに潜って宝箱を拾ったり!」

「いいねいいね!」

「勇者となって魔王と倒したり! 逆に魔王になって世界征服したり!」

「ほうほう」

「今なら世界にあった使える能力プレゼント!!」

「おぉー!」


 天使はこほんと咳払いして、にっこり笑った。


「異世界転移、いかがですか?」

「ハンターやりたい!」


 魔法にも憧れるけど、やっぱりハンターでしょ! 猫も豚も好きだし。


「よしじゃあすぐ転移! ……と、行きたいところですが。あなたが27人目なんですけど、ほぼ全員夢だと思ってたんですよね。ですから一旦、あなたの部屋に場所を移しますね」

「え?」


 どういうこと、という暇もなく。私は私の部屋にいた。築ン十年のボロアパート、その一室。


「私の部屋だ」

「えぇ。これで夢じゃなくて現実だって、理解してもらえました?」


 頬を抓って見たり、鏡を覗いたり、引き出し開けてみたり、雑誌を開いてみたり。

 夢を見ている感じではない。昨日作ったカレーの匂いもする。まだ鍋に残ったままなのだ。


「……理解した」

「良かった。一応ですね、あまり取り乱さず、状況を把握して受け入れてくれる人を優先的にお誘いしてるんですよ。今のところ日本人の十代から三十代が多くて」


 私もそれに当てはまる。二十三歳の日本人。

 とりあえずコタツで寛ごう。促すと天使もコタツに入った。ついでにお茶とみかんをあげてみようか。食べれるの?


「異世界転移って、この世界の私はどうなるの?」

「亡くなったことになりますね。抜け殻だけ置いていくので、まぁ死体です。中身は新しい肉体に入るわけですし」


 話しながらみかんをもぐもぐ。天使は白い筋を取るのに難航している。細かいな、そのまま食えよ。


「記憶はそのままってことね。新しい肉体って希望は通るの?」

「その世界の常識の範囲内なら可能です。美人でも美男子でもモデル体型でも筋肉美でも。世界によっては人間じゃなくて亜人にもなれますよ」

「ほほう」


 何それ楽しそう。ぼんきゅっぼんの超美人が世界最強とか、憧れる。やりたい。


「ぼんきゅっぼんの美人で世界最強になりたい」

「世界最強、は本人次第ですが、ぼんきゅっぼんの美人は出来ますよ」

「本人次第か……」


 ずずっとお茶を一口。


「色々特典はつくので、最強とまではいかなくてもトップクラスにはなれると思いますよ。今まで転移された方は大抵そうです」

「今まで何人転移してるの?」

「27人中25人ですね。一応転移してくれそうな人を選んでますので」

「そういえば転移させる目的って何なの? その世界を救ったり、発展させたり?」

「いえ、神様の暇つぶしです」

「あ、そう……」


 今の気持ちは転移したいに傾いている。彼氏はいないし友達は就職や結婚で疎遠になっているし、休みも被らない。バイトは楽しいし、ゲームも楽しいけど……。

 普通なら家族で躊躇いそうだけど、正直どうでもいい。糞親父も私がいなくなってもすぐにそれに慣れるだろう。決して仲が悪いわけではないけど、さしたる情もなく。


「何か持って行けたりとか、そういうのないの?」

「その世界で普及しているものなら持ち込めますけど」

「あるなら向こうで手に入れればいいわけだしね……。まぁいいか。結論としては転移したい、かな」

「ありがとうございます! ノルマの30人まであとちょっと!!」

「あ、ノルマとかあるんだ……」


 えへへ、と照れたように笑い、天使が立ち上がった。


「美人でぼんきゅっぼんで戦闘能力高くてハンターですね! おまかせあれ! えぇっと、ヘルプコールっていうのでぼくと話せるので、何かあったらすぐ連絡ください。ちょっとした疑問から相談まで何でもどうぞ」

「アフターサービスもあるのね。了解」

「では、良い異世界ライフを!!」


 あ、ねむ……く、な……。


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