五ノ月
忠誠の売買。そのまんまだった。
金銭を条件に、忠誠を誓うこと。え、結局奴隷? と思ったが、それはそれで別にあるらしい。
「忠誠はあくまで、自らが忠誠を誓いたいと思った方が対象です」
「でも金銭が絡んでくるわけでしょう?」
忠誠といえば「殿っ!」って感じのイメージなんですが。あと王子と近衛みたいな。金銭絡んだら忠誠っていうか契約だと思うんだよね。ただ仕えてるだけっていうかさ。
「今は金銭を条件にすることが多いのは確かですが、本来はそのようなものではないのです。自らが主と認めた方に忠誠を誓う。それが本来の在り方でした」
が、いくら忠誠を誓っていても、咄嗟の場合に動けないこともある。そこで生まれたのが忠誠の指輪という魔道具だ。忠誠の指輪を媒体に魔法による契約を交わす。そうすれば咄嗟の時にでも体が勝手に動いてくれる、と。
「死にたくないのに勝手に主を守って死ぬ、と」
「……セリカお嬢様は何か忠誠にあまり良い感情を持っていないようですが」
そういうわけではない。ただ綺麗に言わずにはっきり言えよ、と思ってるだけだ。
「金銭に困った人々が忠誠を売るようになったのは最近の話です。奴隷とは違い、生活の保証がされています。忠誠の指輪の程度も、売買前に話し合われます」
「段階?」
「はい。命を賭けてでも主を守るといったものや、悪意を持った行動は取れないといった曖昧なものもあります。忠誠の指輪は魔道具ですから、売買の時に双方が納得いくように詳細を決めることが出来ます」
結局主従契約よね。裏切り行為が働けないようにすることが出来るっていう点では有用そうだ。
「対して奴隷は、生活の保証がされていません。持ち主は奴隷を好きなように扱えます」
要するに忠誠よりも好き勝手使えますよーってこと?
「奴隷の身に落ちるのは罪人だけですからね。貧しさから身売りをしても奴隷になることは出来ません。奴隷はどんな扱いをされてもそれは罰ですから、当然のこととされています」
「罪を犯したら必ず奴隷に?」
「奴隷に落ちるのはよほど重い罪を犯した場合だけです」
奴隷=犯罪者か。奴隷ハーレム出来ないな。いやする気はなかったけど。うーんこの世界の場合は忠誠ハーレムって感じかな。
「奴隷を持つのはその罪人を排出した地域の貴族や、関係者が多いですね。たとえば家族の仇などです。ですので犯人である奴隷を貰い受けて、嬲り殺す、といった事例が多いようです」
何それ怖い。
あーでも復讐も出来て一石二鳥なのかな? 家族が殺されたら仇を討ちたい、って人は多いと思うし。そこで実行するか出来るかは別として。日本人は出来ない人多そうだけど、この世界の方が殺生に関してゆるいだろうし。
考えようによっては死罪よりもきついな。拷問の末に殺害とかもありなわけだし。
「奴隷はともかく、忠誠の売買に関しては貴族法です。特に忠誠は出易い箇所ですのでしっかり覚えて下さい」
「はい」
この国の法律は大きく分けて貴族法と平民法の二つ。その名の通り、貴族用の法律と平民用の法律だ。貴族と平民では何かと違うらしい。今回の試験に出るのは貴族法だけなので、平民法にはほとんど触れていない。端的に言えば同じ犯罪しても貴族の方が罰が緩いって話だ。
さてさて週に五回の強制試験勉強から解放される今日。とても良い天気である。これは訓練日和である。
ユーリー様からお礼状が届いたので目を通す。節目の誕生日だし、パーティーとかありそうなのになかったのかな。誘われなかっただけかもしれないけど。
手早く返事を書いてママに預けた。もはや文通状態だ。
意気揚々と細身剣を手に裏庭へと急ぐ。進路が決まってから、剣の訓練をこそこそしなくてよくなった。「アデュライト家の娘として、学校で遅れを取りたくありませんので」という魔法の言葉によって。
練習用の藁人形に向かって、剣を振り下ろす。おー軽い。楽しい。長剣スキルで覚えた技も使いたいけど、リオンお兄様の前では使えない。残念。
「ナビールは、これぐらい扱えたら充分だ」
魔法学園だもんね。メインは剣術でなく、魔法だ。
素材も何もよくわからないけど、扱いやすいこの剣はすぐにお気にいりになった。何より手入れが楽だ。本来なら脂がとか刃こぼれがとか色々あると思う。しかしこの素材の何とか金属が魔道具の手入れ布と相性がよく、軽く拭くだけで良いという。なんて便利。素晴らしいね。斧とかハンマーもこの素材で購入したいところだ。
「木剣に変えて打ち合いに切り替えよう。防具もつけて」
「はい」
藁人形は動かないもんね。
補助魔法が使えないから純粋な剣術勝負になる。まぁ勝負にならないから指導試合なんだけどね。
昼食後は魔道具の制作に打ち込んだり、サオンとお茶をして過ごした。あー、せっかくの休日が終わってしまう……。勉強はもう飽きた!




