ホワイトデー
三ノ月一日目。雪が消えた。何を言ってるのかわからないと思うが、私はようやく気付いた。季節はゲームの設定が忠実に反映されている。
ゲーム内の背景だ。冬の間はずっと雪景色だった。だから雪だったのだ。
つまり三ノ月十六日から四ノ月十五日の間は、たとえ嵐が来ようとも、桜は満開、散ることはない。長く花見が楽しめて良いような、そうでもないような。何とも言えない微妙な気分になった。
さて、ホワイトデーである。
さすがにユーリー様がいらっしゃるというので、両親揃ってお出迎え。相変わらず水色おかっぱなユーリー様と従者が数人やって来た。挨拶なのか打ち合わせなのか、何か色々話している。私は端っこで大人しく待機。親の進行のもと挨拶を終え、予想通りの遠乗りとなった。デューお兄様とリオンお兄様、セバスチャン、他従者。私団体行動って嫌いなんだけど。
面倒くさいけど絶えず微笑み、適度に会話しどうにかこなす。疲れた、めっちゃ疲れた。ユーリー様も別に楽しそうには見えない。常に無表情。お父様とデューお兄様がちょっと焦ってるのが面白い。お母様は相変わらず無表情だけど。
ユーリー様が無表情なのは仕方ないと思うんだよね。十三、十四の子供に外面取り繕って愛想振りまけとか難しいでしょ。来たくもない場所に放り出されてかわいそうに。まぁこの子も両親の言付けだろうし、仕方ないことだけど。お互い苦労するね。
お決まりの強いモンスターが現れたり盗賊が~なんてイベントもなく、無事遠乗りを終え屋敷に戻る。今度は軽食をつまみながらのお茶会だ。これには両親も参加。さらに疲れる。
それが終わると今度は私の部屋でユーリー様とお話。あれか、あとはお若い二人で、的な。メイドは控えているけど従者は部屋の前で待機。
「ママの淹れるお茶はとても美味しいのですよ」
ママというのは金髪巻き毛のメイドさんの通称だ。交流していくうちに仲良くなったので、お母さんがいたらこんな感じなのかな、お母さんって呼んでも良い? と聞いてみた。そして号泣された。ナチュラルにナシカ様が母親だってことを忘れていた。別にナシカ様の存在否定したわけではない。日本では母親不在だったから、そのままの感覚でいたんだよね。母親の愛に飢えてるのとは違うんだけど。
さすがにお母さんはということで、あんまり変わらないけどママと呼んでいる。本名であるマミリア・マーティにも近い感じがするし。
ママの淹れてくれたお茶を飲みながらまったり。両親の目がないから、少しくらい寛いでも許されるよね。それを見たユーリー様も、さっきより寛いでいるように見える。
「そういえば先日、魔道具の作り方を教わったんですよ」
「魔道具?」
「はい。魔道具と言っても簡単なランプなんですけど」
そう言ってブレス型のランプを取り出す。
「へぇ……」
おぉ。意外と食いついた。興味深そうにランプを観察している。
「リェーン・パウペルさんっていう職人さんの工房にお邪魔したんです」
「リェーン・パウペル……聞いたことないな。うちはレメス・ベアートゥスで揃えてるから」
よくわからないけど、有名な人なのかな。揃えるってくらいだし、ブランド名なのかも。さすがです。
「魔道具制作の学校もあるのですって。楽しそうですけど、やっぱり魔法学園かしら」
「……そうだね。僕はナビール学園に入学したいと思っているから、君もそうなると思う」
ユーリー様がそういうってことは、婚約者だと同じ学校ってルールでもあるんだろうか。私が勝手に追いかけるって設定にしようと思ってたんだけど。
「成績順でクラスが決まるから、しっかり勉強しないと」
「そうですね。私も頑張ります」
最下位のクラスになったらお母様の頭から角が生える予感がする。怖い。
「そうだ! ユーリー様はダーツゲームを知っていますか?」
「ダーツ?」
「これですわ」
ダーツを見るのは初めてだというので、ルールを説明をして遊ぶことになった。気配察知でサオンが通りかかるのを見計らい、偶然を装い部屋に引き入れた。ママはそれを見て苦笑い。黙認してくれるらしい。かわりにサオンの仕事を引き受けてくれた。二階の管理はママだから、問題ないみたいだ。
結局夕食の時間までダーツに夢中になって遊んだ。ユーリー様はかなりの負けず嫌いらしく奮闘していたが、結局一度も勝てず終い。いやぁ、大人気ないとは思うけど、わざと負けるのもねぇ。というわけで本気でやった。華を持たせる? そんなの知るか。
夕食後はデューお兄様に教えてもらいカードゲームなどで遊んだ。トランプとほぼルールは同じだったから楽勝。私は勝負事に強い。両親が参加してなかったので本気でやって、一人勝ち。カードゲームでもユーリー様は負けず嫌いを発揮して、悔しそうだったけど結構楽しんでいるようだった。
翌朝帰り際に、「次は負けない!」と宣言して帰って行った。いやぁ楽しんでもらえてなによりですね。デューお兄様は苦笑いしてたけど。
その日の夜、私のナビール学園受験が言い渡された。家庭教師としてセバスチャンをつけられるようだ。
「アデュライト家の人間として、恥ずかしくないクラスに入るように」
相変わらず一言しか話さないお母様が怖かった。




