魔道具制作
そんなわけで、セバスチャンと町の魔道具店へやって来た。デューお兄様に魔道具を作ってみたいというと、魔道具店に話を通してくれたのだ。本当はお兄様も一緒に来る予定だったが、思いのほか仕事が忙しくなってしまったらしく、セバスチャン一人だ。
「ようこそいらっしゃいました」
「本日はよろしくお願いしますね」
「はい!」
魔道具店の店員、ワイズの案内で、サインのあった魔道具制作者の元に見学に行くことになった。
「リェ、リェ、リェリェーン・パ、パパパパウペルですよろよろしくおねがいしますっ!」
名前の原型留めてないし。
リェーン・パウペルは、アッシュグレイの髪をひっつめにした眼鏡の男性だった。名前で何となく女性だと思っていただけにちょっとびっくりした。
吃りながら挨拶してくれている。正直挨拶は要らん。魔道具制作の説明だけで良い。
「おいリェーン、ちょっと落ち着け」
「だ、だって」
男がだってとか言うな。うぜぇ。
「セリカ様が呆れていらっしゃるぞ。深呼吸だ深呼吸」
深呼吸を始めるリェーンとワイズ。取引してるだけあって親しいようだ。
結局リェーンは落ち着かず、痺れを切らしたワイズが説明してくれることになった。深呼吸の意味なし。
一通りの説明を受けたあと、工房内を見せてもらった。工房と言っても小さなもので、木製の作業台が三つと乱雑な棚があるだけだ。実際に作っているところをみせてもらってから、一番簡単な方法で魔道具を作ることになった。
基本中の基本、ということで今回はランプ。外側を作って、光魔法の込められた魔石をつけるだけ。超簡単。
ただその外側をどんなデザインに、どんな素材で、光魔法の種類、発動の条件などで個性が出る。バラエティバッグに入っていたランプはごく普通の置き型と吊るし型だったので、腕に嵌める形にした。
革のブレスレットに魔石をつける。発動条件はスイッチの切り替え。スイッチの切り替えで、魔石とブレスレットの回路が繋がったり切れたりする、ごく普通の造りだ。
本当はヘッドライトにしたかったが、元になる頭に巻くようなものがなかったので断念。ターバンならあるけど、ビジュアル的に許せないので却下。一から作るには時間が足りないし。
魔道具制作のスキルを取得したので設定しておく。
「外側と魔石があれば、あとは回路だけ覚えれば色々出来ますよ。回路の教本もありますし、どうぞお持ち帰りください」
「まぁ、ありがとうございます」
「十五歳になって魔法が使えるようになったら、魔石に魔法を込めたり、魔道具に直接魔法を込められるようになりますから」
長いわっ!
十五歳になってから、が多すぎる。まぁこっそりやるつもりだけどさ。
「そういえばあの温泉石はどうやって作ったのですか?」
見た目が石そのものだったので、回路があるかどうかも怪しいし。
「ああれは、て天然のお、温泉石に加工したもので……」
「天然の温泉石?」
「東ノ島だけにある、珍しい石なんですよ。輸入はないので向こうで直接手に入れるか依頼を出すかすれば手に入ります」
東ノ島って日本がモデルか。攻略キャラに出身者がいた気がする。
「温泉石も魔石の一種なので、魔法が込められるんです。回路がない分、消耗も激しいのですが、数年は持つと思います」
「温泉石といい、ダーツセットといい、面白い発想をお持ちですね」
リェーンの顔が強ばった。褒めたのになぜだ。
「ははは……独創的すぎて、あまり買い手がつかないもので、その……」
知らずに地雷を踏み抜いたらしい。
「腕は悪くないんですよ。回路に不備があったりするわけでもないですし」
ワイズの必死のフォローが痛々しい。
「そろそろ休憩に致しましょう。リェーンさん、お茶を淹れたいのでキッチンをお借りできますか?」
ナイス、セバスチャン。
セバスチャンとふらふらしたリェーンを見送って、嘆息した。
「失礼しました。そんな事情があるとは思わず」
「いやぁ……申し訳ないです。人気のある製作者は忙しくて、空いてるのがあいつくらいしかいなかったもので」
「随分親しいようですね」
「学生時代の友人でして。私も一応魔道具製作科に通っていたので」
「魔道具製作の学校があるのですか」
「王都にしかないんですけどね」
生産系の学校も楽しそう。
セバスチャンの用意したお茶を飲んでから、今度は軽量化のポーチを作ることになった。布の製品は、特殊な針と糸を使い、回路を縫い付けて作る。回路図を見ながらちくちくちくちく。糸の指定もあるし、けっこう細かい。思っていたよりも時間がかかる。
そういえばリュックにもこういう刺繍がされてあったな。
「軽量化の回路は応用が効くので便利ですよ」
リュックのように大きなバッグに縫い付けるのも良し、大型の家具に彫っておき、持ち運びを便利にするのも良し、武器を持ちやすくするのも良し。
ワイズは水筒に彫っているそうだ。それは便利そう。
わからないことがあったら質問に来て良いというので、基本的な道具と材料を購入した。魔石はお兄様に魔法を込めてもらうということにし、大量に購入しておいた。もちろん自分でするつもりだけどね。どうせならこの世界にないような、個性的かつ便利な魔道具を作りたいな。




