誕生日
カラフルな鳥の羽に鏃のついたダーツを、長方形のダーツボードに投げる。小気味の良い音を立てて、ダーツはボードに突き刺さる。狙い通りの場所に当たり、パラメータが上昇した。
「うしっ! 新記録!」
「セリカ様、お上手です!」
「ふっふっふ、すぐにサオンに追いつくからね!」
言ってるだけだけど。追いつきたいのは山々だけど、サオンはちょっと規格外だと思うんだよね。
私が今遊んでいるダーツは、もちろん町で買ってもらったあのダーツセット。普通のダーツと違い、魔道具店で買った魔法のダーツセットだ。見た目が違うのは魔道具だからか世界が違うからかわからないから置いといて。まずはこのダーツ、投擲スキルが高くても、補正が効かない。なのにパラメータは上がる。その上指定通りの箇所に当てると、パラメータの上昇率が高くなる。ついでに連続して当てるとさらに上がる。
やばい。楽しい。
今一番のお気に入りで、時間があったら常にやっている。お茶の時間にサオンが来たので誘ってみたら、これがものすごく上手い。初めてだというのに上手い。なのでしょっちゅうサオンを引き入れて勝負を挑んでいるのだが、今のところ全敗。投擲スキルも設定してもらったが、私とは伸びが違う。すごい勢いで伸びている。これが天才か。正直羨ましい。
「はっ!? 危ないところでした。えっと、ユーリー様からお手紙です」
「ユーリー様から?」
開封してみると、バレンタインのお礼状だった。どうやら無事届けられたようだ。手紙にはお礼の言葉の他に、私の好きなものは何かと書かれている。ホワイトデーのリサーチか。
本が好きで読書が趣味、特に魔法書が好きで、時空魔法の本が中々手に入らなくて~とわざとらしく書いておこう。ククク、期待してるぜぇ! 一応、ユーリー様の好きなものも聞いておくか。ゲームで大体知ってるけど、今後の参考に。
時空魔法は時間と空間に関する魔法である。時間はモンスターの動きというか時間を遅くしたり、自身の動きというか時間を早送りすることが出来る。正直風と神聖のスピードアップと何が違うのかわからない。概念の問題? 結果は一緒じゃん。
空間はその名の通り、空間を作ることが出来る。わかりやすくいえばバリアみたいなものだろうか。透明の膜が作れて、精度によるがモンスターを通さなかったり、逆に空気すら通さずモンスターを窒息なんてことも出来る。よくある異次元収納なんかも可能らしい。しかしそこまでパラメータをあげるには、どれだけ時間がかかることか。
お礼状の返信をサオンに預け、バラエティバッグの観察をすることにした。
私が選んだ深緑のリュックの中身は、全部筆記体で リェーン・パウペルと書かれてあった。全部同じ製作者かよ! というか英語あるんだ。ちなみにダーツも同じ。どんだけこの人に縁があるんだろう。いやたぶんバッグの中身は製作者で統一してあるんだと思うけど。ちなみに中身はランプが二つ、水筒、ライター、温泉石、テント、ゴーグル。自動地図は入ってなかった。ちょっと残念。
魔道具をいじっていると観察スキルが上がった。観察スキルは見知ったものよりも未知のものを観察する方が上がりやすい。魔道具しかり、モンスターしかり。私が今持っているものの中では、このバラエティバッグ一式が一番上がりやすい。観察スキルの派生である、鑑定スキルや看破スキルが欲しいのだ。何となく便利そうじゃない?
誕生日当日に、ユーリー様から魔法書が届いた。ホワイトデーじゃなかったのか。希望通りの時空魔法で万々歳だけどね。
魔法はパラメータが上がると自動で取得出来るものもあるけど、魔法書を読んで練習してようやく取得出来るものもある。自動じゃない方は、ゲーム内に出てこなかった魔法なので特に興味深々。
夕食は私のリクエストを聞いてくれて、好きなメニューにしてくれた。牛頬肉の赤ワイン煮込みにローストチキン、ミートローフ。デザートはクラシック・ショコラ。南方に嫁いだお姉様が送ってくれた、特産品のチョコレートを使用。私は甘さ控えめのケーキに生クリームをたっぷり添えるのが好きだ。
誕生日の夜だというのに相変わらず両親はいなかった。別にいなくていいけど、いっつも何してるのかね。忙しいらしいが、数ヶ月顔を合わせないほど忙しいのか? 貴族ってそんなもの?
お姉様にはお礼状を兼ねたお手紙と、ユーリー様には次回リクエストをさりげなーく織り交ぜたお礼状を送った。アデュライト家には使い魔がいないので、手紙は業者に頼むそうだ。使い魔欲しい。
「はぁ……」
「どうしたんだ、セリカ。ため息なんてついて」
「ホワイトデーにユーリー様がいらっしゃるそうです」
せっかくの狩りなのに、今朝方届いた手紙のせいで欝である。
「ユーリー様が? わざわざ?」
「えぇ。ホワイトデーの贈り物を持っていらっしゃるそーですよ、マジめんどくせぇ」
「……持ってくるだけ?」
「手紙に最近お兄様に遠乗りに連れて行ってもらっていると書いたので、遠乗りすることになるんじゃないですかね」
「えっ!?」
こんなことなら遠乗りのこと書かなきゃ良かった。大人しく魔法書関係にしておけば……! なんて、今更言ってもね。はぁ……。
「えぇー……いやでもナシカ様が俺をつけるとは思えないし。俺はないな、ない」
「ユーリー様が苦手なんですか?」
「ユーリー様っていうか貴族ね。俺は元々貴族教育受けてないし、礼儀作法全然ダメなんだ」
「そうなのですか。でもそれだと誰が?」
「兄上とセバスチャンじゃないかな。あとはユーリー様も従者を連れて来るだろうし」
どうせ狩りは出来ないんだし、ダーヴィトお兄様じゃなくても関係ないか。
「それよりもお兄様、私、もっと強いモンスターと戦いたい! 迷宮にも行きたい!」
かなり乱獲してるのにレベルが一つしか上がってないのは、モンスターが弱すぎるせいだと思うんだよね。もっと強いヤツと戦いたい!
「うーん……。迷宮はハンターじゃないと入れないし、強いモンスターはこの付近にはいないから」
「えっ? 迷宮ってハンターじゃないと入れないんですか?!」
「そうだよ。あと一年の辛抱だから」
「長い、長すぎる……!」
迷宮も強いモンスターも駄目だなんて! 他に何か楽しみを!
「楽しみねぇ……。それなら魔道具制作とかどうかな」
生産系かぁ……まぁいいやってみようではないか。




