連休明け 七ノ月
残りの連休は迷宮で出来るだけ稼ぎ、レベルが9に上がった。
キャンプで採取して来た植物を庭に植えたり、親子猫のブラッシングをしたり、さりげなく魔糸蜘蛛が一匹増えてたりとほのぼの過ごした。本当にどこから増えてるの? 最終的には何匹になる予定なの? 部屋にぎちぎちになったらさすがに怖い。軽くホラーだよね。
シシーに料理を教えているうちに、パラメータは500を超えた。この調子なら冷凍庫は冬だろうか。残念ながら夏には間に合いそうにない。
そんな調子で問題なく七ノ月に入った。七ノ月はプフの誕生日で、十五歳の成人。今までの見習いとは違い正式に雇うことになるので、給料が発生する。その辺りは全部オネエに任せてるんだけど、さすがにオーバーワークではないだろうか。
「経理大変じゃない? 人増やす?」
「それならお針子とメイドの兼任がいいですね。人が増えた分、衣服も増えますし」
「んー……実は魔動ミシンを買おうかなって思ってるんだけど」
本当は魔動ミシンもリェーンに作ってもらいたいところだけど、そのための魔法は覚えていないし、オネエが覚えるのも当分先。いずれは欲しいけど、いつ買おうかと迷っていたのだ。
「魔動ミシンがあれば助かりますね。それなら当面、人を雇わなくても大丈夫だと思います」
オネエの返事を聞いてすぐに魔動ミシンを買うことに決め、使用人の追加は保留ということになった。
「ありがたいですが、無駄遣いは控えてくださいね。今年度は税金がありますから」
「はーい」
連休明けは通常の講義内容に戻ったが、学内の雰囲気が少しおかしい。
基礎講義が始まる前、最初にやって来たスケッチに聞いてみた。
「何かあったの?」
「あ、やっぱり気付いてなかったんだ……。対校戦の代表候補者が発表されたんだけど」
「全然気付かなかった」
「そうみたいだね。全員そのまま代表になるわけじゃないんだけど、意外な人が多くて皆驚いてるみたい」
「へー」
「他人事だけど、もちろんセリカさんも入ってるからね? ソフォス講師の推薦で」
「あー……」
そういえばそういう話聞いてた気がするわ。忘れてた。
「今までは秋くらいに候補じゃなくて代表が発表されてたんだけど、今年から変わったみたい。候補者の中からまた選抜があるんだって」
「ほー」
「……とりあえず候補者は特別な訓練があるらしいから、来週からは時間割通りに動かないでね?」
「んー」
何だか面倒な感じだなぁ。
「セリカ!」
「ぐふっ」
メリル、鳩尾、鳩尾! 鳩尾に膝が!
勢いよく扉を開けた勢いで私に突っ込んできた。 殺す気か!
「代表!」
何代表って。あ、選ばれたってことか? これは喜びの突撃なのね。もっとソフトにお願いしたい。
「メリル、セリカさん苦しんでるよ。……セリカさん、メリルも代表の候補者でね、それから」
「代表だ!」
また勢いよく扉が開きテンションの高いエフィムの大声が響いた。耳が痛い。
「……僕と、エフィムも」
ぽつりとスケッチが呟いた。
つまり初期基礎メンバーは全員か。
「そんなわけで作戦会議だ!」
「作戦会議ィ?」
そんなものしてどうする。そもそも代表に確定したわけでもないのに。
「……もしかしてこのメンバーで団体戦に出るつもり?」
「もちろん!!」
「やっぱり……エフィム、セリカさんは個人戦の方が良いんじゃないかな」
「なぜだ!?」
「いや団体戦だともったいないでしょ」
「勿体ない」
いやそもそも団体戦とか個人戦とか講師が決めるんじゃないの? 今ここで話し合う意味はあるのか。
「なるほど、確かにもったいないな!」
……何か丸め込まれてるし。
「で、その代表っていつ決定になるの?」
「最終的に決まるのは秋みたいだよ。訓練の結果次第らしいから、セリカさん、真面目にね?」
「私はいつでも真面目でしょ」
「出席日数も関係するみたいだから、忘れずに訓練に出てね?」
真面目ってところはスルーなの?
「セリカ、一緒に出る」
メリルが縋るように私を見上げる。いや、私、真面目だから。本当に真面目だから。メリルまでその反応っておかしくない?
放課後さっそく顔合わせがあるというので、面倒だったけどメリルに連れられて出席した。詳しいルールの書かれた羊皮紙をもらい、メリルと隣同士に座る。エフィムとスケッチはその後ろに座った。
講義室に揃ったメンバーを見渡す。どうにも面倒なことになりそうなメンバーだ。
王子と赤髪、ユーリー様、シスコン、キャンプで一緒になった赤髪の取り巻きが二人、スケッチ、エフィム、メリル、コジロー、アカネ、ヒロインちゃん、シモナ、ドーリス様以外の基礎二班メンバーと半数以上が知り合いである。ゲーム内ではルートによって変化していたけど、大体同じようなメンバー構成だった。勢揃いなメンバーなのに、ドーリス様だけがいない。不思議だ。
「今年のスケジュールは書かれてある通り――」
説明が始まったが、読めば分かるような内容なので適当に流す。要するに二月後半に対校戦がある、メンバーは個人が五名、団体が五名の二チーム、一部講義が特別訓練になる、それ次第で代表が決まる、そんな感じだ。
夏期休暇中は自由参加で訓練があるらしいので、代表を勝ち取りたい人はきっちり出るのだろう。私は出ない。出稼ぎに行く。
騎士を目指すなら学内評価もあった方がいいかもしれないし、スケッチに別行動にするか確認しておかないとね。




