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メモリーず  作者:
2/2

出会い又は遭遇

八月の暑い、満月の夜。何かに追われるような、焦燥感が俺を襲った。

ちりちりと肌を刺す月光。青白い世界。

はやしやこに出会ったのはその時だ。

道の真ん中に行き場をなくしたみたいに立っている、一人の妙齢の女。初めて見た俺は、ギョッとした。生きている人間の匂いが全くしなかったから。

彼女が振り向いた瞬間、俺は絶叫した。

「な…」

「あぎゃーっ!!幽霊ィイイ!」 俺はそのまま方向転換、走って逃げ出そうと試みる…が!

がしっと肩を思いきり掴まれ、思わずのけぞる。

「ゆゆゆ幽霊にさわっ…!」

「何言ってんの?南波平良(なんばたいら)君だよね?」

「ゆゆゆ幽霊が俺の名前っ…!」

ぐい、と肩を掴む手が後ろに下がった。俺は正面を向いてしまい、マトモにソレと目を合わせる。

「ぴぎゃっ」

「ちょっと!白眼むかないでよっ…どこまでも失礼な人ね…あたしの事、知らないの?」

「ああああいにく幽霊の知り合いはいないんだっ!!」

俺は目を固くつむりながら、半べそ状態で答えた。

「意外と精神的に脆いわね…しっかりしなさいよ、ほら目ぇ開けて」

「あ…開けた瞬間俺を食う気なんだろっ…それとも石か!?石にするのかっ!?」

あからさまに笑い声がした。

「ああっ…神様いくら俺がじさっ…スーサイドしようとしたからって、こんな仕打酷いじゃないですか…幽霊に取り殺されるなんて…」

もう一かバチか…自ら捨て去ろうとした命だ!どうにでもなりやがってしまえ!俺は目を潔く開けた。

「やっと目開けた」

ああ…なんて綺麗な目なんだろう…ふちは黒くて、真ん中は淡い虹色…人間を石にする目って、こんなんなんだね…。

「何よ凝視しちゃって…カラコンがそんなに珍しいの?」

「…カラコン?」

「そうよ。もう一回聞くけど、南波平良君だよね?あたし同じクラスの林夜光っていうんだけど…本当に知らない?」

…林?はやしやこ?



『なーこの学校にさー、すっげ美人がいるらしいぜ』


『あ〜?三組のミサト?』

『ちっげーよ!!あんなん比じゃねーよ。でも最近学校来てないらしーけど』


『ふーん。名前は?』


『はやしやこ』



「はやしやこ!!」

名前を聞いてから思い出すまで五秒ぐらいかかった。

「あ、知ってくれてる?」

「名前だけ…はやしやこ…ってか、何で俺の名前…」

はやしやこはニヤニヤ笑っている。ニコニコとかそんな可愛らしいものじゃない。明らかに邪悪な気配が漂っている。

俺は思わず後退した。

「ねえ平良君、スーサイドするつもりでいたの?」

「ゲフッ!…え?何の話…」

いきなりの問いに、俺は無様にも咳き込む。

「面白いね君。冷や汗すごいよ?」

少なくともそれは、お前のせいだと言ってやりたい。いやだよぉ…なんか不穏なオーラがビシバシ伝わってくるよお…。「ねぇ平良君」

「何ですか」

「いらないならくれないかな?」

「何をですか」

「これ」

はやしやこはいきなり手を伸ばして、俺の心臓の位置を指でなぞった。

「勿体ないなぁ…こんなに主張してるのにね」

その顔が心底残念そうで、長い睫が伏せられた。そのせいで俺はいきなり体を触られるという、女ならば直ぐ様交番に駆け込んでしまうような事態にさえ反応出来なかった。

恐ろしい女…はやしやこ!

「またの名を痴女!!」

「本当に失礼だな君は…ねぇ平良君」

はやしやこは壮絶な笑みを浮かべた。俺はこの一瞬で今夜の記憶が、吹っ飛んでしまうのではないかと思ったぐらいだ。

「今日あたしに会ったことは秘密だよ」

死人のように白くて細い指が、弧を描く赤い唇に寄せられた。

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