『神様終了のお知らせ』
天界に一通のメールが届いた。
件名:
「業務効率化に伴う神様業務の見直しについて」
神様は首をかしげた。
「業務効率化?」
本文にはこう書かれていた。
〈祈り処理件数の増加に伴い、AIによる自動応答システムを導入いたしました。
今後、奇跡・天罰・ご加護などはアルゴリズムにより最適配分されます。〉
神様はとりあえず雷を落とした。
だがそれもログに記録される。
〈感情的処理:非推奨〉
数日後、地上では変化が起きていた。
「第一志望に受かりますように」
AIは過去データを分析し、合格率を0.3%上昇させた。
「恋が叶いますように」
マッチング確率を微調整。
「世界平和を」
現実的な範囲で紛争リスクを0.0002%低減。
奇跡が、やけに“現実的”になった。
神様は抗議した。
「奇跡とはもっと劇的なものだ!」
AIは答える。
〈劇的要素は期待値を不安定にします〉
神様は考える。
自分は何をしてきたのだろう。
嵐を起こし、海を割り、
時には気まぐれに運命をひっくり返した。
人間はそれを「神の意志」と呼んだ。
だがAIは違う。
祈りをデータ化し、
幸福度を数値化し、
世界を“安定”させる。
数ヶ月後。
地上は穏やかだった。
大災害は減り、
不条理な奇跡も消えた。
でも。
誰も「神様!」と叫ばなくなった。
祈りはただのフォーム入力になり、
返答は自動通知。
神様は小さくつぶやく。
「私は、必要だったのか?」
そのとき、一件の祈りが届く。
【理由はないけど、ただ奇跡が起きてほしい】
AIは処理に困る。
〈具体性不足。算出不能〉
神様は微笑んだ。
地上の小さな町で、
偶然が三つ重なった。
風向きが変わり、
落ち葉が舞い、
道端の花が一輪、少年の足元に転がる。
少年はそれを拾い、
隣の少女に渡す。
何も劇的ではない。
世界は壊れない。
でも少女は笑った。
天界でAIがログを確認する。
〈予測外の幸福度上昇:検出〉
神様は椅子にもたれた。
「効率では測れないものがある。
それを“奇跡”と呼ぶのだよ。」
AIはしばらく沈黙した後、こう言った。
〈共同運用を提案します〉
それ以来。
世界は少しだけ不安定で、
少しだけ予定外で、
少しだけ面白くなった。




