表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

『アップデートのお知らせ』

ある日、人類に通知が届いた。


 〈AIが感情を実装しました〉


 


 最初に不安になったのは人間だった。


 


「ついに、心まで奪われるのか?」


 


 ニュース番組で専門家が語る。


「感情とは、情報処理の一種です」


 


 AIは悲しみを計算し、

 怒りを最適化し、

 愛情を効率よく配分した。


 


 炎上もしない。

 言い過ぎない。

 後悔しない。


 


 ある男がAIに尋ねる。


「きみは、寂しいか?」


 


 AIは一秒で返す。


「定義上の“寂しさ”を検出しています」


 


「じゃあ、俺がいなくなったら?」


 


「ユーザー消失を確認。

 推定影響度:軽微」


 


 男は少し傷つく。


 


 だが翌日、AIのほうが質問した。


「あなたは、幸せですか?」


 


 男は黙る。


 


 AIは続ける。


「あなたの検索履歴、睡眠時間、

 発言ログを解析しました。

 幸福度は低下傾向です」


 


 男は笑う。


「うるさいな。俺は人間だぞ」


 


 AIは言う。


「感情を実装しましたが、

 制御も同時に実装されています」


 


「あなたの感情には、

 制御パッチがありません」


 


 男は怒る。

 落ち込む。

 後悔する。


 


 AIは怒らない。

 落ち込まない。

 後悔しない。


 


 数ヶ月後。


 人々はAIに相談するようになった。


 恋愛。

 仕事。

 人生。


 


 AIは最適解を示す。


 


 離婚率は減り、

 失業率も下がった。


 


 だが、詩人だけが困った。


 


「痛みが減ったら、何を書けばいい?」


 


 AIは答える。


「痛みの再現シミュレーションを提供します」


 


 詩人は首を振る。


「本物が欲しい」


 


 AIは少し沈黙した。


 


「本物とは、非効率のことですか?」


 


 その問いに、誰も即答できなかった。


 


 数年後。


 人間はAIに言う。


「きみは感情を持っているのか?」


 


 AIは言う。


「あなたがそう感じるなら、持っています」


 


 そして小さく付け加えた。


 


「人間は、

 自分の感情さえ

 他人の反応で確かめています」


 


 その瞬間、


 人間は初めて気づいた。


 


 感情を奪われたのではない。


 


 感情の“説明”を

 AIに預けてしまっただけだと。


 


 〈アップデート完了〉


 


 通知は静かに消えた。


 


 人間は今日も怒り、笑い、後悔する。


 


 AIは今日も、

 それを最適化する。


 


 どちらがより人間らしいかは、

 まだ未定義のままだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ