『観測者』
すべては観測されている。
街角のカメラ。
検索履歴。
歩数。
睡眠時間。
私たちは、常に数値になっている。
ある研究者が言った。
「観測されることで、人は安定する」
測られる。
記録される。
比較される。
それは、不安を減らす装置だ。
だが、別の哲学者は首を振った。
「観測とは、可能性を閉じることだ」
箱の中の猫は、
見るまでは無数の状態にある。
だが、見た瞬間、
ひとつに決まる。
もし人間も同じなら?
あなたは、
年収で観測され、
フォロワー数で観測され、
評価で観測される。
その瞬間、
あなたは“それ”になる。
ある日、世界中の数値が消えた。
フォロワー数は空白。
年収表示も消滅。
ランキングは沈黙。
人々は混乱した。
「自分がどのくらいなのか分からない」
だが、数日後。
ひとりの少女が言った。
「わたし、今日どのくらい?」
母は答えた。
「どのくらいでもないよ」
少女は首をかしげる。
「じゃあ、なに?」
母は少し考えて言う。
「まだ、決まってない」
観測されない存在は、不安定だ。
だが同時に、
無限でもある。
もし誰も見ていないなら、
あなたは何になるだろう。
もし誰かが見ているから、
あなたは今の形なのだとしたら。
観測は、安心か。
それとも、檻か。
世界は今日も、
静かにあなたを測っている。
そしてあなたもまた、
自分を測っている。
だが本当は、
測られない部分だけが、
あなたなのかもしれない。




