煌めき売りの少女
「はーい、聞こえてるかな?見えてるかな?今日も挨拶からいっくよー。全天で最も明るい光り輝くもの、Siriusちゃんだよ。今日もみんなの心を焼き焦がすから、何処よりも熱い楽しい時間を過ごしていってね」
『天使ちゃんキター』
『今、雪降ってて寒いですけど』
「一番星の騎士さん今日も有難と。天使じゃなくて一番星って言ってねー。アンチ米さんは絶好調そうだね」
画面には黒い配信者画面が映っている。
黒い枠の中には可愛い部屋が広がり、美少女が動いている。
これは私じゃない私。
偶像になろうとした私。
「今日は大晦日だね。生憎の雪で星は見れないけど、私を見て行ってね」
『勿論、何時でも見てますゾ』
『雪の方が輝いてる』
「またまた、アンチ米さんは。シリウスは太陽の2倍の質量を持って25倍も明るいのよ。地球から見られる21個の1等星の内で一番明るいんだから」
『Siriusちゃんのシリウス紹介ダー』
『コピペ乙』
「もう。そんな事言ってるとシリウスの発見秘話からシリウス誕生の歴史まで一日語り尽くしちゃうよ」
『1日と言わず、1週間でも1か月でも私は良いですゾ』
「そう?じゃあ一番星の騎士さんの為に頑張って調べてこようかな。あ、切れた。」
『大 歓 喜』
『絶対やめろ』
『詰まらねぇ事すんな』
『如何されました?』
「ごめん、電気切れちゃったみたい。真っ暗になっちゃった」
『顔動いてないぞ』
『それは良くないですゾ』
「何かないか探してくるね」
立ち上がり、部屋を見渡す。
何もない殺風景な部屋だ。
有るものと言えば、パソコンに机、冷蔵庫と電子レンジ。布団は出しっぱなしだ。
コンクリートジャングルと化した現代では珍しく、木造のアパートは私しか入居者がいない。
もう誰も入らないし、貴方が出て行ったら取り壊そうかしら。なんて言われながら電子レンジを貰ったけど、私が大成すればエアコン付きで立て替えてあげるんだから。
そう、エアコン付きで。
夏は熱いし、冬は寒いのよね。
パソコンが落ちていなかったから分かっていたけど、ブレーカーは落ちていない。
今有る全部の家電を使っても落とせないのは気づかない振りだ。
暗い中手探りで棚を漁る。
指の先に硬い感触が当たる。
マッチ棒で火を灯し、少し暖かさと明かりが宿る。
「あったよー。見て見て、アロマキャンドル。小学校で作った奴かな?実家から持って来てたみたい」
『綺麗ですネー』
『見えねぇよ**』
「だよね。今Pに写真挙げるね。トラッキングも戻って来たみたいだし、配信続けるね」
『見えましたゾ、可愛いですナ』
『ここに出せや』
「可愛いよね。すっかり存在を忘れてたよ。特別感も出るし、今日にぴったりだね。そして大晦日だから奮発してお蕎麦買ってきたから、みんなで年越しそばにしよ」
『私も同じ蕎麦を買ってきましたゾ』
『もう食べた』
「私は溢すのが怖くて、汁なしだけどみんなはなに味かな?」
『奇遇ですナ。私も汁なしですゾ』
「おんなじ人がいるなんて、ビックリ。それじゃあ手を合わせて、頂きまーす。今年一年も大変だったけど、配信続けられて良かったよ。来年はもっと伸びたら良いな」
『私が押し続けますゾ』
『どうやって伸ばすんだよ』
「どうしようね。ゲーム配信でもやってみる?家のパソコンで動くかなぁ。あっでも、今なら火に照らされてゲーミングパソコンみたい」
『好きなことをやってくれてるだけで幸せですゾ』
『ホラーゲームでもやって泣いてろよ』
本当、こうやって照らされているとピカピカの良いパソコンみたい。
キャンドルも良い香りがして、こういう香りがするパソコン合ったりしないのかな?
空気清浄機みたいな感じに出てくる空気に香りが付くの。
そうすれば、ずっとパソコン付けてても勿体なくないよね。
「ホラーゲームかぁ。フリーゲームならきっと動くよね?鬼に追いかけられる奴とかやってみたいな」
『良いですナ』
『もっと恐いのやれよ、VRとか使ってさ』
「VRは無理だよ、高いもん。収益化して有名に成ったらできるのかな?」
『住所教えてくれたら贈りますゾ』
『↑こいつ俺よりやばくね』
「住所は教えられないかな。出来れば欲しいものリストから応援してくれると嬉しいかな。部屋は広々《ひろびろ》してるから十分動けると思うんだけどね」
『パックご飯贈りましたゾ』
「いつも有難うね。昨日も食べたし、明日も食べるつもりだよ。今日はお蕎麦でお腹いっぱい」
『もっとましなもん食えよ』
『私のご飯を...閃いた』
「アンチ米さん、白飯を食べられるのは有難いことなんだよ。今は雑穀の方が稀少だけど、白米ってご馳走なんだから。一番星の騎士さんは何を閃いたのかな?」
『私が農家になって、米も野菜も肉も贈れば良いのでハ』
『出来るわけないだろ、ヲタ』
「気持ちは嬉しいけど、仕事を大切にしてね。ちょっと頭痛がしてきたからお水飲むね」
『お水助かる。マイクの近くで飲んで下さレ』
『そのまま配信閉じとけよ』
「せっかくの大晦日なんだから、皆と年越ししたいじゃん」
ガン
アロマキャンドルを落としてしまう。
あーあ、絶対凹んじゃったよ。
取り壊すなら請求しないで貰えるかな?
なんだかボーっとしていい気分だったのに、冷めちゃった。
何時にもまして頭痛いし、配信も続けないと。
『大丈夫ですか?凄い音がしましたゾ』
『鼓膜破れました。訴えます』
「ハハハ、アロマキャンドル落としちゃったの。心配しないで、後アンチ米さんは訴えないでね」
『怪我はないんですカ?』
「ないよー。当たってないし、触ってないからね。でも、床が凹んじゃったかも。大家さん怒るかな?」
『私が大家さんになりますル』
『また顔動いてないぞ』
「ごめんね。アロマキャンドル割れちゃったから、今日はもう動かないや。近所の電気屋さんも3が日は開いてないから、ちょっとだけ許してね」
『固まっててもSiriusちゃんは一番星ですゾ』
『もう配信終われよ』
足元には砕けた硝子の破片が飛び散っている。
アロマキャンドルの不安定な火の光を受け、ゆらゆらと輝く。
足元に夜空が現れたようだ。
心なし、足も温かくて気持ちが良い。
「アンチ米さんはそんなこと言いながら、いつも見ててくれるよね。今だから言うけど、私は感謝してるんだよ。同接10人行けば良いほうの私の配信に毎回来てくれてコメントくれるの。そりゃ言い方がキツイこともあるけど、ありがとうね」
『こんな奴に構う必要ないですゾ』
『荒らしと変わりませんし、私がその分コメントしますゾ』
「一番星の騎士さんもありがとうね。最初の配信から一度も欠かさず来てくれてるし、待機所作ったら真っ先に待機コメントくれるよね。最近は欲しいものリストも送ってくれてるし、でも、自分の生活を大事にしてね。私のせいで生活を壊しちゃうと、私も悲しいから」
『照れますナ』
『むしろ壊して、変えて欲しいですゾ うぇるカーム』
「ふふ、なにそれ。アンチ米さんはどうしたのかな?心を焼いちゃったかな?」
『一番星の輝きに負けたんですナ』
『コメントのするしないは俺の自由だろうが』
芋っていたアンチ米さんが浮上する。
電気が切れて、アロマキャンドルも落としちゃって駄目駄目だったけど、調子が戻って来たのを感じる。
最高にリラックス出来て、嫌なことを忘れられる。
「そんなこと言って、コメントが赤く染まってるよー。これがスパチャってやつー?」
『は、Siriusちゃんの初スパチャ盗られたなりカ』
『お前にスパチャなんて送るわけないだろ』
『たしかに、赤くないですナ』
『いつのまに収益化通ったんだよ』
「ええー?赤いよー。真っ赤だよー。画面もチカチカして凄いねー一番星の騎士さんのコメントも赤いよー。スパチャありがとうねー。大事に使わせてもらうよー」
『大丈夫ですカ?』
『こいつついに厄でもやり始めたんじゃないだろうな』
「そんなことしないよー。お酒だってのんでないのにー。酒も煙草も、勿論厄もやりませんー。お蕎麦しか食べてないんだからー」
『流石私の一番星』
『栄養失調でくたばるんじゃねえの』
『Siriusちゃんが死ぬわけナイ』
「そうよー、私はしなないんだからー。ほーら、だんだんあったかくなってきたよー」
『これ不味いんじゃ』
『Siriusちゃん様。貴方は聖女なのでハ?』
『聖女でも、もっといいもの食べてそうだけどな』
「わたしはにんげんだよー。いまねーとってもあたたかいの。ねむっちゃいそーうー」
『こいつ寝やがった』
『確かに明るいですナ』
『お前にはなにが見えてるんだよ』
(しりうすちゃん、ほらでばんだよ)
ええー、もっとねときたいよー。
(だめだよー。きょうはぶどうかんでのらいぶだよー。これからぜんこくつあーものこってるんだから)
(そうですよ、せんぱい。せんぱいがりーだーなんですからしっかりしてくださいよ)
そうだったよね。ええと、なまえはなんだっけ?
(もー、しりうすちゃんはひどいなー。わたしはかぺらだよ)
(そうですよせんぱい、りげるのなまえをわすれちゃったんですか)
えへへー、ごめんね。
(おおてはいしんしゃじむしょにはいっていっしょにがんばってきたのにー)
(にねんおくれだからって、りげるのことてきとうにあつかいすぎじゃないですか)
そんなことないよ。みんなのことだいすきだよ。
(みんなしりうすちゃんのことまってるよ。かんせいがきこえるでしょ?)
ウーーカンカンカン、ウーーカンカンカン
ほんとだー、すっごいおおきい
(ぶどうかんなんだからあたりまえじゃないですか。せんぱいをよんでるこえもありますよ)
「Siriusちゃーん。早く逃げて。Siriusちゃーん。早くー」
よばれてるねー
(いまやせんぱいはだいにんきゔぁーちゃるはいしんしゃなんですから、あたりまえです)
そうかなー?
(そうだよー、このさんにんでいちばんとうろくしゃおおいんだから)
それなら、がんばってうたっちゃおうかな?
昨夜11時55分ごろ、アパートの2階から火が出ていると、近くを通りかかった男性から通報がありました。火は約1時間後に消し止められましたが、火元と見られる部屋から一人の遺体が発見されました。警察によりますと、遺体はこの部屋に住む無職、星さん(24)と確認されました。
部屋からは割れたキャンドルが見つかり、火元であると見て調査が進められています。
現場は老朽化した木造のアパートで、当時他の入居者は居ませんでした
「なあ、知ってるか?」
「何がだよ」
「先週火事のニュースがあっただろ。あの様子が配信されてたんだってよ」
「火事?正月早々のあれか。火事の動画なんて珍しくないだろ。SNS探したらいっぱいあるぞ」
「それがよ、中から配信してるんだって」
「中から?火事の?」
「おう。その問題の動画がこれってわけ。リアル炎上配信なんて言われてるんだぜ」
「良く消されてないな」
「Vだったみたいで、リアルが出てるわけじゃないからな」
「なんだよ、音だけかよ」
「一回見て見ようぜ」
「これ同接2人かよ、声は良いけど面白くないな」
「ここからだよ、ほら。聞こえるか、メラメラ鳴ってるだろ」
「確かに、よくこんな状況で配信出来るわ。ほんとにキマッてるんじゃね」
「怖いよな。それに、この火事を通報したのがこれのストーカーだって話もあるんだぜ」
「怖すぎるだろ。ちょっと待って、...こいつ歌ってね」
「あるわけないだろ、燃えてる中だぞ」
「いやでも、音量上げて見ろよ」
「いーや、もう止めるね。はい終わり」
「コメントで同じこと言ってる奴いるだろ、ちょっとスクロールして見ろよ」
「自分ので見ろって。ほら、もうミリオン超えてるから履歴にあっても詮索されねぇよ」
「それは面倒。話変わるけど、コロッケ買って帰らん?」
「良いね。顧問も部長もしごききついんだよ」
キラキラで最初に思いついたのが酸欠だから仕方ないよね。
マッチ売りの少女は冬の童話だし。
最後に、少女が売っていた「煌めき」が何かはもうわかりますよね。




