3.HORANE!!
廊下は海のみえる路地へと繋がった。淡い青と黄色の家に挟まれた、一車線の小さな道路とも面した外国風の景色だった。夕方の煌めく良い時間。本物のヤシ並木とアロハシャツのヤシ模様が何か答え合わせのように海風を受けているが、この男からすれば何でもないことのようで、とりあえず気分は良さそうにしている。「気持ちがいいでさあ……」
ここまでの案内を終えた女は向き直ると、続けざまにオレたちの足をビーチへと促す。ビーチには他に客の姿がない。パラソルさえない真っ新な砂浜だけが広がっていた。だが向こうから妙な、同じ白いセーラーと帽子に身を包んだ七人の子供たちがこちらへ歩いて来て、整列すると、まるで披露するみたいなあどけないおじぎを揃える。すかさずスーツの女が口を開く。
「彼らは給仕です。何か必要があれば彼らにどうぞ。」
「給仕? 子供に労働をさせているのか?」
子供たちはせかせかと氷とお酒の入ったグラスを手渡してくる。何か良からぬ疑惑を向けていながら、この差し出されたグラスを断ることなどオレにはできなかった。揺れる色つきの液体のすぐ横にはセーラーの無邪気な笑顔が浮かんでいた。
「いえ、労働とはまた違うのです。」女はそう断ると、一度愛想笑いを挟んだ。「彼らは普段、近くの教会で聖歌隊として活動し、そこで生活している子供たちなのですが、この給仕というのもその活動の一環だと思っていただければ幸いです。」
「ふーん、まあどっちでもいいけどさ。」いずれにせよお酒は好きだ。
見通せば遠くの松林の上には、十字架の立つ三角屋根を確認できた。すでにアロハの男は、聖歌隊の子供たちと打ち解けようと積極的に話しかけている。そうやって辺りを見渡すうち、スーツの女は、オレが少し目を離したくらいではその愛想笑いを剥がさない。
「はい?」
少しでも目が合えば俊敏に応対へ入ろうとする。この女にとって、むしろ接客は不慣れな分野なのかもしれない。
アロハの男も、オレとはまた違ったお酒を持っている。男と子供たちはそっちで話を進めたらしく、いつの間にか七人の合唱が始まることになっていた。
オレと男と女はにこやかに砂浜へ腰を下ろし、横一列に並んだ子供たちの清らかな歌声を鑑賞する。その聖歌は、すぐ隣から聞こえる海の波の音とも相性がよかった。あるいはここの教会の地理的に、元から海との相性を考えて作曲されているのかもしれない。歌に身を許すうちに深い領域へと侵入していくあの感覚……途端、ある一人の女の子の怒声によってそれが打ち切られる。
「ダメじゃない! また音がずれた人がいる!」
「ご、ごめん……」
「HORANE!! やっぱり言ったでしょ!!」
肌が薄いせいか、その女の子はみるみる顔を真っ赤にして怒っていた。あんな言い方では、ミスをした方もうまく身動きが取れないだろう。
「まあまあ、みんなすごく上手でしたよ。」
そこへ立ち上がったのは、潮風に膨らんだヴィンテージアロハだ。一番に喧嘩の仲裁へ入る。だがあの女の子のスゴイのは、標的が聖歌隊メンバーの中だけに留まらないところだった。
「そうやって褒めるのも、私たちが子供だからですよねえ!」
「いやいやそんなんじゃあ……実際聞いてみて感動しましたし……」
「私たち、毎日不安なんです! 私たちはもう、いつ子供じゃなくなってもおかしくないから! だからいつまでも子供の扱いに甘えていてはいけないんです! 早く実力を持たなくちゃ……だからおじさんも、そんな嘘の優しさ、止めてください!」
「決して嘘なんかじゃあ……」
相変わらず座り込んだままのスーツの女が、特に立ち上がることもせず向こうへ助け舟を出す。
「だ、大丈夫だからね……」