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02,『死の魔女との再会は、あの雨の中で』

(久しぶりに、アイのこと、思い出したなぁ……)


ふと、高校1年になった勇樹は今朝見た夢を思い出しながら物思いにふけた。

今日は入学式。高校生になり、とある事情で隣町で一人暮らしをすることになった勇樹はマンションから出ながら空を見上げた。



(死の魔女、ねぇ……。結局、アイツのあの『魔法』はなんだったんだ?)



今更掘り返しても、全く意味がない。

あの雨の後、藍華は転校してしまったからだ。あの魔法の説明も、死の魔女である理由も教えてくれなかった。

別に、無理して聞こうとするものでもないから、放っておいたが、今となってはすごく気になるし、幼馴染として突然居なくなったのは如何せん許し難い。



「……はぁ」



思わず、溜息が出る口を閉じた勇樹は信号の前で止まった。

新しい住まいと新しい高校。高校の前には大きな桜の木が植えられた桜通りがあり、周りでは緊張気味の新入生が不自然に周りをきょろきょろと見渡していた。



「……」



はてさて、誰が同じクラスの人なのか。大人しそうな眼鏡の女子生徒。サッカーをしたことがありそうな男子生徒に、ギャル系女子生徒もいる。



「ーーん?」



そんな中、周りの新入生の中でも人一番一目を惹く存在がいた。

それは、翡翠髪の美少女だった。翡翠色の光沢がある長髪に、椿色の瞳。纏う空気、姿勢、身体。

その全てが可愛らしく、また凛としていた。


周囲の男は顔を赤らめ、女は見惚れているようだった。


その翡翠の少女と言うと、ほんの少し顔色が悪いように見えた。まぁ、あまり良いものではないだろう。

不特定多数の視線を受けるなど。


しばらく、じっと勇樹が見ていると、その翡翠の長髪の少女と目があった。

その少女はこちらを見て、小さく唇を動かした。


”た””す””け””て”


そう、言った瞬間、身体がふらついた。



「え、あちょっ――」



慌てて勇樹はその少女に近づき、間一髪で背中に手を回した。

倒れる少女は勇樹の腕で息苦しそうに胸を押さえ、顔は真っ青を通りこして真っ白になっている。



「おい!おい!……っ、ったく」



多分、そっとしておくことが一番なのだろう。

少女は同じ制服を着ているようだった。まずは学校に電話、と思ったがすぐに救急車を呼ぶ。

上着を脱いで、枕替わりにして新品の学校鞄から真新しい下敷きを取り出して扇ぐ。


ざわざわと、周りにいた生徒達がざわつき始め、若干切れ気味に勇樹は吠えた。



「え?」「なになに?」「だれか倒れた?」「え、ちょ、やばくなーい?」「何が起こったの!?」「貧血?」「誰か呼ばなきゃ!」「えー。どったのー?」

「見せもんじゃねーぞ!!それするくらいなら、学校行って誰かここに呼んでこい!!する気がないなら、失せろッ!!」



五分もかからず、救急車は勇樹の元にやってきた。

救急車と救急隊を誘導し、少女はストレッチャーで運ばれる。どうやら、結構容体は悪いようですぐに近くの市民病院に運ばれる、とのことだった。



「ありがとう。少年」



救急隊から感謝の言葉を伝えられる。

別に、当然のことをしたまでのはなしなので、勇樹は大人に対して丁寧な対応をして返し、そのまま見送った。


そして、気づけば――雨がぽつぽつと降り始めていた。



「はぁ?さっきまで晴れてただろ……」



ちょっと曇り気味ではあったが、既に始まっているだろう入学式に向かうために勇樹は走った。

鞄で頭を守りつつ、小走りで大通りを走る。


人助けをしたというのに、勇樹は不運な少年だったらしく、すぐに土砂降りになる。



「くっ、そ……」



走ると所々道端にできる水溜まりが波紋状に広がり、桜の花弁が避けていく。


大通りの、大きな橋を渡った先が、学校だった。


大きな橋〈山桜橋〉の手前に来た、その瞬間だった。



「ーーぇ?二度目?」



橋の上に、誰かが血だまりの中で沈んで、倒れていた。

それは、どこか見慣れた藍色の長髪だった。その髪の少女はまだ息をしており、痙攣する身体を必死に起こそうとしていた。



「お、おい?」

「ーーーーー」


なぜか、彼女の近くには刀が落ちていた。血まみれの、その刀に手を伸ばしたかった様子だが、届かない。

血を見るのは、別に初めてではない。

だが、この状況を見て、学校側からは誰も見れていないのだろうか。いや、交通人も例外ではない。


少女は勇樹の声にぴくりと身体が震える中でより動き、そして顔をこちらに向けた。


不思議と、勇樹も近くにより、血だまりに膝をついて頬に張り付いた髪を剥がす。



「ーーゅっくん?」

「アイ……?」



これが、感動の再会、などではないのはよくわかっている。

勇樹は目を大きく見開いて驚愕をあらわにし、藍華も僅かに驚いた素振りを見せ、でもすぐに何かに気づいたように片手を伸ばした。


それは、勇樹の後ろ。



「え?後ろに、何が――」



手を伸ばされた方向を見ようとすると、空が光った。

そして、気づいたときには―――。



「ーーごフっ」

「え?」



――藍華が背中から心臓を穿たれ、死んでいた。

口から大量の血を吹きながら勇樹の胸の中で死ぬ。勇樹は、思考の一つもろくに動かせなかった。



「あ……、あ……、ぁ……」



雨のせいで、すぐに藍華の躯は冷えていく。雨に打たれたせいで、勇樹もまた身体が冷え、震え始める。

一体、これは幼馴染の死に対しての震えなのか寒さの震えなのか。

その区別は、今の勇樹にはできず。頭の中では、過去の同じ場面での藍華の言葉が再生される。



「『待った』」

「ーーー」



橋の上、落下防止の柵の上に座るのは、見慣れた藍色の長髪。

その藍色の長髪は前とは違い、パチン、と指を鳴らして勇樹が抱いている藍華の躯が今度は純白の光となって消えた。



「あちゃちゃ。これじゃあ、三年前と同じ状況になっちゃうね」



愉快そうに笑い、その人物は――死の魔女は勇樹に近づく。勇樹は、血までも消えたその恰好で、震えた声で死の魔女の名を告げた。



「アイ……」

「うん。正真正銘。私は、死の魔女こと、壇ノ浦藍だよ。ゆっくん」

「お前……、本当……っ。人騒がせの、バカか……」

「あはは。ごめんね。魔女倒しをしてたら、仕返し受けちゃった。まぁ、おかげで『敵』は倒せたから、万事解決ってことで」



さりげなく立ち去ろうとする藍華に、勇樹は手を伸ばして掴む。

自分の手を通し伝わる柔らかい感触と”冷たい”体温。

嗚呼。そうか。



「ゆっくん、あの――」



藍華が居心地悪そうに何かを言いかけるが、勇樹は知らない。

久しぶりの再会。結局、三年前のあの『魔法』も『死の魔女』についても、何も教えてくれなかったのは藍華の方である。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「えっ?」



藍華は、てっきり先ほどの魔法と自分の事について追及してくると思ったのだろう。

だけど、勇樹はそれを越えて若干色々な感情を貯め込みつつ、キレた。



「見る限り、お前も俺と同じ高校に通うんだろ?いいか。新しい生活はとにかく第一印象が一番なんだ。遅刻しそうだったのか?安心しろ、俺も翡翠色の長髪の美少女助けて遅刻してる。一緒に謝ってやるから、来い」

「え、ちょ、ゆ、ゆっくん?おーい。え、い、いたいいたいいたい!!」



手を掴んだまま、引っ張って校門へと連れて行く。異論反論は絶対に許さないし、もうこの手も離さない。



「ゆっくん。離して、離して―――!」

「ヤダねッ。ばぁああああああああか!」

「いやいやいやッ!? 入学式遅刻よりももっと聞くべきことがあると思うんだけどッ?!」

「知るかアホッ! 青春時代の門出で失敗したヤツの末路は決まってボッチコースなんだぞ?!」

「別にいいけども!私はっ!」

「俺がダメなんだよッ!いいから行くぞッ!」



口で反抗する藍華を連れて、勇樹は遅れて入学式に参列したのだった。

勇樹は藍華の幼馴染だ。藍華の弱点はよく知っている。高校の先生達が勇樹たちを出迎えた瞬間に、藍華は化けの猫の皮を被り、お淑やかな才色兼備の美少女を振る舞って参列した。

入学式が終わるまでの間、勇樹は久しぶりの再会ではあるがそれでも――



(後で説教だな)



喜びよりも死を目の当たりにしたことと、また逃げようとしたことに対して、怒りの方が勝っていた。





久しぶりの投稿ですっ。

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