代償とは
「生涯、最北部鉱山にて労働を科す」
これがレオの決めたエリーゼとパウロへの刑罰だった。
会場の貴族達がざわついている。
なぜなら刑罰を発表する前に2人が犯した罪を読み上げられているからだった。
我が国の生命線であるグレイン辺境領地に未知の病原菌をばら撒き、エリーゼに至っては国王のレオナルドに刃物を向けた。
その刃物を用意したのもパウロであった。
そりゃそうよね。
剣で戦うのが主流のこの世界で、あんな近代的なバタフライナイフここでは見ないわよ。
そこまでの大罪を犯しておきながら生涯幽閉という労働に科すだけで命は取らないと言う国王の心情を理解し難いのだった。
「そしてこの者達が働いて得た金品は今回病にかかり生活が苦しい者やグレイン領の立て直しの為に使われる」
レオの言葉にざわついていた会場が静まり返る。
いつもの裁判であれば、重過ぎる量刑を科す国王にもう少しお情けをと反論するのが貴族側なのだが、今回は逆だった。
貴族達も処刑相応の罪だと認めているのに、国王が殺さないと言う。
どう反論するべきか考えあぐねているのだろう。
そんな静かな空間の中、エリーゼである恵里奈の声が響いた。
「そんなの嫌よ!なんで?あたしが聖女なのよ?その女は国を滅ぼす悪女よ!」
と私の座る席を指差す。
あーあ、とうとう(おねーちゃん)から(その女)になったわよ。
まあ、この場で(おねーちゃん)呼びされても困るから良いけどね。
恵里奈はいつでも、私にどんな仕打ちをしても悪びれる事なく(おねーちゃん)と親しみを持った風に呼んだ。
妹だと思った事の無い私からすれば気持ち悪い思いをしていたがそれすら恵里奈の狙いなのだと思っていた。
あたしは可愛いあなたの妹なのよ、これぐらい当然でしょ?
と言われている気がしてた。
そんな恵里奈が私をその女と呼ぶ。
もう妹を演じる余裕が無いのだろう。
王妃に対する余りにも無礼な物言いに会場はまたざわつき出す。
やはり処刑した方が良いのではないか、生かしておく意味がないとの声が大きくなる。
「罪人エリーゼに聖女の力は感じない、そんな戯言を言う元気があるのなら贖罪の為に少しでも多くの岩を掘るように」
再びレオから言われる言葉に絶望的な顔をする恵里奈は諦めきれないのか。
「どうしてっ!あたしとレオっちは愛し合っているのよ2人で力を合わせてあの女を倒すの!」
まだ物語のストーリーと現実の違いに気がついていないのか、それとも気がつきたくないのか恵里奈は失言を続ける。
「くどい、余の決定は絶対だ!」
いつに無く強い口調のレオに周りの貴族も言葉を失うのだった。
全てを受け入れている様子のパウロと反抗的なエリーゼはこれにてお終いとばかりに拘束していた騎士に連れられて退場しようとしていた。
その姿を見ていた私は無意識に身体が動いていた。
「エリーゼ、パウロ」
私の声に場がまた静まりかえる。
「あなた達のして来た事の代償がこれなのです、過去のあなた達の行動を思い返して悔いるのであれば生涯精一杯勤めなさい」
バネッサ王妃の言葉であって、星野あかりの言葉でもあると伝われと願いながら放った言葉にパウロは頷き、エリーゼは不貞腐れた表情をしながらも言い返す事無く騎士に連れて行かれるのだった。
「これにて終了とする」
宰相のギースお兄様が宣言すると、レオから退場して、私もゲンに言われるまま席を立った。
残された貴族達がどう評価するかわからないがレオは国王らしく立派だったと私は思った。
そして長く長く続いていた因縁がようやく断ち切られ、胸にずっと燻っていた思いが晴れた様な気がしたのだった…




