悪足掻き
「処分は王都で言い渡す…」
グレイン邸に戻って早々応接間に集まった私達に向けてレオはハッキリと言う。
ああ、殺さないんだ…
瞬間的に私は思った。
ただ処刑するならわざわざ王都にまで搬送しない。
この地で即日執行も可能なんだ…
平民が国王に薬を盛る事も、平民が悪害な薬を売る事も撒いた事も内乱罪で処刑を言い渡されてもおかしくない事案なのに。
一応、前世の家族だった人達が処刑されるところは見たくないからホッとする反面で、
(バネッサは即日執行だったけどね)
と原作の事を思って少しモヤッともするのだった。
エリーゼとパウロの姿をした父親と義妹は落胆しているのか、頭を低く下げて顔色を見ることは出来なかった。
そしてとりあえずグレイン邸の牢に拘束し、明日王都まで搬送する事になった。
国王自らがその場で出した王命にピリつくほどの緊張感があったが、なんとかこの場が終結した事に皆が少し気を抜いた…
その瞬間の出来事だった。
「い、いやよ…おねーちゃんになんか渡さない…」
騎士に両手を背中で掴まれていたはずの恵里奈がその手を振り払い、レオに向かって駆け出していた。
元々近い距離にいた事も、普段なら護衛がついているけど今回はいない事も、イナビルを配りインフルエンザウィルスの猛威が無くなったから結界を解いてしまった事も全てが悪い結果に繋がった。
「レオーー!!」
私の叫び声と、エリーゼの両肩を掴むレオが崩れ落ちるのとほぼ同時だった。
恵里奈は再度駆け寄る騎士に拘束されながらも
「あたしのじゃないなら…消えちゃえ…」
青白い顔をして両手は真っ赤に染まる小型のバタフライナイフを持っていた。
「イヤーーー!!」
倒れたレオに駆け寄ると恵里奈の手元と同じく胸元が赤い。
私はその場所を止血するつもりで両手で強く押さえた。
「い、医者を呼べー!!」
叫ぶマザール、私のすぐ後から駆け寄ってきたモーリスとゲン。
「お、俺が間違ってた…昔からずっと俺が悪いんだ…」
更に増えた騎士に強く拘束されながら小刻みに震えるパウロ。
こんな刃傷沙汰、前世を通しても経験なんてない。
現実味が無くて、スローモーションのように見えた。
嘘であって欲しい、やっぱりここは小説の世界なんだと思いながらもレオの名前を呼び続けたのだった。
その後、駆けつけた医者に治療を受けたレオはバタフライナイフが小型だった事もあり幸い致命傷には至らなかった。
痛みが強いであろう事を懸念して薬を投与して眠らせている。
私は処置が終わり人払いされた部屋のベッドの横に座り、青白いレオの頬を撫でた。
昨夜は一緒に入ったベッドに今はひとりで横になるレオを見る。
私自身も強い疲労感を感じ深いため息をついた。
レオが刺された後、マザールや他の騎士達も恵里奈の処刑を求めてきた。
国王のレオがいない時は王妃である私が代わりに命令を下せるからだった。
国王に刃物を向けて、更に傷を負わせたなんて庇いようが無い事はわかってる…
当然処刑の一択だろう。
でもレオは王都で下すって言ったんだ。
元々処刑でもおかしくなかったのに何故か…
私はその意味を知りたかった。
ヒーローとヒロインなのだから死んだらストーリーは破壊するだろう。
それを避けるために補正されたのか、それとも何か考えがあるのか…
だから私はマザールの申し出を却下したんだ。
「陛下は王都で言い渡すと言われました」
って譲らなかった。
ねぇレオ?
貴方はどうしたかったの?
早く元気になって教えて頂戴よ…
「これ、約束したからね…」
いいわけがましく独り言を呟いてから眠るレオに顔を寄せる。
血の気が引いている冷たい唇にそっと口付けた。
「ちゃんとご褒美あげたから、早く起きてよ…」
無意識の内に私の目からは温かい涙が溢れていたのだった…




