酒屋のパウロ
は?
誰って?
意味のわからない恵里奈の答えに私は多分これ以上ない間抜けな顔をしていただろう。
「バネッサ様ー!」
そこに男を引き連れたゲンが食堂に入って来た。
「ご命令通り、酒屋にいた男を連れてまいりました」
ゲンがパウロを捕獲して連れて来てくれた。
だけどその男、パウロを見て私は血の気が引くのがわかった。
「え?…うそ…」
ゲンが連れてきたのはパウロ、でも私にはわかるこの人は
「あ、パパー!解毒薬ちょうだーい」
恵里奈の声に我に返る。
この人までここにいるのか…
酒屋のパウロの姿をしたその人はあかりの実父、その人だった。
「も、もう渡した分しか無い…」
ゲンに相当脅されたのかオドオド話すパウロ。
ねぇそのあんたの首根っこを掴んでるの、あんたの孫だよ?
「えーー!それじゃぁ困るぅー!」
パウロに駆け寄る恵里奈。
腹立たしい口調だが、言ってる事は恵里奈と同意するわ。
「ばら撒いた病原菌はなんなの?」
パウロを睨みながら問い詰めると、下を向いたパウロはボソッと答えた。
「イ、インフルエンザウィルス…」
はぁぁー?
インフルエンザー?
おいおい、そんなもんなんで持ってんの?
インフルエンザの意味がわかるゲンとマザールもポカンとしてるわ!!
じゃあなに?解毒薬はタミフル系かなにかですかい?
しかし確かにこの世界でインフルエンザは未知の病気なのは間違いない。
予防接種なんかあるわけないし、広場で倒れてた人達は、抵抗力の弱い年配者や子供だったのだろう。
比較的体力のある、若い者や男性が恵里奈に群がっていたのだ。
どうする…
たしか発症から48時間以内に薬を摂取しないとダメじゃなかった?
「い、一応自分が病気になったら困るから一個だけ持ってる…けど…」
と、恵里奈がごそごそポケットから取り出した紙の包み。
「こ、これを吸えばいいんでしょ?」
吸引薬!イナビル系かいっ!!
どちらにしろ一個しか無い、と諦めかけた時ひらめく。
あ、ああっ!待って…
そもそもバネッサは闇属性で毒薬系には強い…
まだ大ボスになる前は力が使えずに聖女への嫌がらせでパウロを頼ったけど、もしかして今なら…
私は薬の包みを恵里奈の手から引ったくり鑑定をかける。
薬も毒も紙一重っていうし、これなら…
「作れるわ!」
それからは闇魔法の(毒精製)を使ってイナビルを大量生産した。
元々は吸引薬だし、とりあえず風魔法を使って領地全体に行き届くようにばら撒いた。
広場で倒れている人々には個別で吸引させて、比較的元気な領民やマザールの騎士団を派遣して自宅へ帰した。
こうやって何とか疫病騒ぎは解決するのだが…
風魔法でイナビルを撒き、倒れた人々に吸引させるバネッサの姿を見て。
「まるで聖女様…」
と口々に噂されて
(バネッサ王妃は聖女だった)
と国中に伝わるのはもう少し後の話。
さて、残るは恵里奈ことエリーゼと違法の薬を売っていた父親ことパウロの身の振り方を決めなくてはいけないが…
我が国の絶対的な存在であるレオナルド国王、彼の判断に全てが託されるわけだけど…
ああ、あれは相当怒ってますね。
バネッサが最後、国を滅ぼそうとした時と同じ表情ですわ…
聖女と災害を乗り越えながら立派な国王に成長していく設定だけど、レオってば一人でも立派に成長したのね…
と、我が子の成長を見るかのような気持ちになった。




