国王の憂鬱(レオナルドside)
クラウズ国の国王であるレオナルドには悩みがあった。
それは自身の妻で王妃であるバネッサの事である。
不慮の事故で父である前国王が崩御し、荒れている国内を早く治める為には強い後ろ楯を手に入れて、盤石な王にならなくてはいけなかった。
レオナルドはその目的の為だけに筆頭侯爵家であるプラント侯爵家から長女のバネッサを娶ったのだった。
が…
このバネッサ、良い噂の1つも聞かない娘だった。
我儘で傲慢で浪費家。
外見は顔立ちは悪くないが、運動も努力もしないのでぽっちゃりとした体型。それでいて派手なドレスを着るので存在感はすごい。
また侯爵家特有の能力である闇属性の持ち主である事を証明するかの様に黒髪に黒目。
なかなかの迫力だ。
その勢いで迫られたら思わず逃げてしまうのも仕方ないと思う。
我が国にはその属性に応じた能力を持つ人間がいる。
主にその血統を強く結んできた貴族は多くの人間が能力を持つが平民にも稀に能力を持つ者が現れる。
火、風、水、土、に加えプラント家のみに現れる事がある闇。
我が王家特有の光。
また非常に貴重で珍しいが為に今や存在すら疑わしいと噂される聖の7属性がある。
その属性は主に髪色に現れると言われていて王家であるレオナルドの髪は金色だった。
火は赤、風は緑、水は青、土は茶。
そして闇であるバネッサは黒髪だった。
「はぁーー」
レオナルドの大きなため息に国王の側近で宰相でもあるギースが反応する。
「レオ、心配事か?」
国王に対して砕けた口調だが2人は幼い頃から一緒にいた幼馴染であり2人きりの時はこの様にしてきた。
「王妃が身籠ったらしい…」
「はあぁ?バネッサが?!」
このギースの口調にも訳がある。
ギース=プラント。
プラント侯爵家、嫡男でありバネッサの実の兄でもあった。
「レ、レオ…お前バネッサとは白いままだと言ってなかったか?」
レオナルドはバネッサを避けていた。
婚姻後は特に必要な時以外は会う事もせずに食事も別。
閨など共にした事はない。
ただ…
「初夜の時だけは同じベッドに入ったが俺もヤケになって式で相当飲んだからな…正直記憶が無いんだ…」
「じゃ…その時に…」
ギースの呟きに男2人は目を合わせ気まずそうに俯いた。
「そんな事より、あのバネッサが子供を産んだとして可愛がると思うか?」
レオナルドの言葉にギースは顔を顰める。
「まあ、無いな…」
バネッサが生まれた時から知っているギースは即答する。
黒髪で生まれたバネッサは両親に溺愛されそのまま何しても許されて育った。
嫡男だったギースはそれは厳しく教育されたし、母方の遺伝子が強かったのか火属性の赤毛だったので、父親に至っては闇で無い事に落胆しているのは明らかだった。
つまり今までで一番バネッサを知り、バネッサの被害に遭っていたのはこのギースだった。
「だよな…」
レオナルドのそんな呟きの後、2人は大切な王族の子をどうやってバネッサから護るか相談した。
そして代々王家の乳母兼、王子王女の教育係でもあったモーリスに頼む事にした。
この時モーリスはもう引退して娘に引き継いでいたのに、渋るモーリスにそこを何とかと頼み込んで、更には本来なら出産時から仕えるところを1日でも早くから仕えてもらった。
そういった経緯があって…
妊娠中だろうとお構いなしのバネッサからお腹の子を護る為にモーリスをトップに乳母グループが結成されたのだった。