長谷川 優
結局、恵里奈は優と同じ会社でお茶汲みやらコピーやらの雑務をしているらしい。
正社員なのか、アルバイトなのかは知らないが…
実家近くの営業所に居ると聞いて、本社勤めの優とは接点は無さそうだと安心していた。
そんな時、私の妊娠が発覚。
きちんと避妊していたし気をつけていたつもりだったが、所詮は女性側からの避妊はピルを飲み続けるくらいしか100%安全では無いと言う事だ。
優はその事実に驚いてはいたが、
「結婚しよう」
と言ってくれた。
本当は妊娠の事実に物凄く不安だった私にこの一言は、涙が出るほど嬉しかった。
話はトントン拍子に進み、とりあえず籍だけ入れて、式は子供が産まれてからにしようと決まった。
仕事も引き継ぎが終わるキリいいところまで働いてから退職して、優のマンションに引越しをして、結婚生活が始まった。
バタバタと慌ただしい日々に大変だったが、日に日に大きくなるお腹を撫でながら、久しぶりに感じる家族と言う存在に幸せを感じていた。
の、だったが…
出産予定日を来月に控えたある日の午後…
私はマンションで優のワイシャツにアイロンをかけていた。
メールアプリの通知音に、アイロン掛けの手を止めてスマホを手に取る。
(おねーちゃん!久しぶりー)
なんで?恵里奈?
登録していないユーザーからの着信だったが、姉と呼ばれたしアイコンの顔が私が知ってる時より派手になった恵里奈だった。
(結婚したんだって?おめでとー)
私はどうせ興味も無いだろうと、結婚も妊娠も実家に知らせていなかった。
なぜ知っているのだろう?
(これ、結婚祝いでーす)
そのメッセージの後から送られてくる画像は優と恵里奈のあられのない姿…
それが2枚、3枚、また明らかに違う日と分かる画像も数枚続いた後で
(お幸せにーー)
心臓を鷲掴みにされた様な痛みを感じた、呼吸すら忘れた、私は恵里奈に何ひとつ言い返せなかった…
優が帰宅するまでどう過ごしたか曖昧な記憶だった。
詰め寄って説明させる?
黙って知らないフリをする?
そんなの耐えられる?
自問自答を繰り返す。
でもこのお腹の子の事を考えると…
と、初めて出て行った実母の気持ちがわかった気がした。
そんな事を考えてると、普段おとなしくあまり動かないお腹の子がはじめて痛いくらいに動きお腹を蹴った。
そして気がついた。
ああ、この子を私の様な子にしてはいけない…
そして優が帰宅した時には離婚の意思を固めていたのだった。
そもそも営業職だった優は外回りと言う体で本社には朝と帰りしかいないのだとか…
はじめは自分が口利きした恵里奈を気遣って営業所に様子を見に行ってたらしいが、優が私の彼氏だと知った恵里奈は急に距離を縮めて来たと言う。
「俺だってはじめは断ってたんだよ!だけど…」
前の会社の同僚が言うには、妻の妊娠中の浮気はよくある事らしい。
でも、優は相手が悪かった。
浮気のひとつやふたつぐらいって許せる相手では無かった。
幸い証拠は恵里奈自身が結婚祝いでたくさんくれたし、私は優と恵里奈に慰謝料の請求と離婚を申し入れた。
それからは、前の会社の同僚達にも手伝ってもらい以前住んでいたアパートに戻った。
距離が近い事もあって、引越し業者を使わず自分でやっていた事もあり、まだ荷物を全部移しきれずに契約をしたままだったのだ。
離婚は調停まで進むほど荒れたし、慰謝料も期間が短いからたいした金額では無いのに恵里奈はごねた。
父親からも
「何も妹相手にそこまで…」
と連絡が来たが、それを言うなら姉の旦那を寝取る妹が正しいのか?
私は譲る事なく請求した。
その間に出産も迎え、ひとりでは無くふたりになった事も大きい。
そう母は強いのだ。
そうやって…
長谷川優との関係が全て解決するまでに元太は1歳の誕生日を迎える程の時間を要していた。




