空の旅は最高!
モーリスが一緒に行きたいと志願した事により、私とゲンと陛下、モーリスの4人でグレイン領へ向かう事になった。
本来、国王と王妃が出掛けるとなれば、侍女やら使用人やら騎士やら相当数の人員を必要とするが、今回はお忍びで行くのでそんな仰々しくはできない。
王宮での実務が滞るといけないのでお留守番になったギースが口を開く。
「普通に馬車を使えば往復だけでも10日はかかるぞ、アレを使ってみるのはどうだ?」
アレって?
私とモーリスは意味がわからず、ゲンは苦笑いをしていて、レオナルド陛下だけが、うーーんと考え込んでいた。
「危険では無いだろうか?」
ギースに問いかける陛下に向かって
「もう問題無く使える状態らしいし、アレならバネッサと…ゴニョ…ゴニョ…」
ギースが耳打ちする。
後半から全く聞き取れませんがー?
すると今度はみるみる嬉しそうにキラキラ笑顔になった陛下は
「うん!そうだな!それがいい!」
と、大賛成してますけど?
その後でギースがアレの正体を説明してくれたのだが、以前隣国がディテール領に攻め込んだ際に乗ってきた大鳥を今は我が国が所有しているらしい。
鳥だけいてもテイム能力が無いと操縦は無理だろうと思われていたが、実は隣国もテイム能力など無く、魔道具を使って操縦していた事がわかった。
ディテール領に被害らしい被害はなかったが、攻め込んで来た隣国をそのまま無罪放免とする訳にはいかず、報復しない代わりに賠償金として大鳥と魔道具を譲り受けたのだそうだ。
魔道具は我が国の専門機関で研究され、大鳥の扱いも騎士団の中から数名に任命してテスト操縦を繰り返していたらしい。
へ?
それはつまり?
大鳥に乗って辺境領まで行けって事ですか??
「計算上では鳥を休ませながらでも1日で到着する事が出来るぞ」
なんと!
馬車の5倍の速さで移動出来るのね!!
「それに10日以上もオスカーと離れるのは心配だろ?」
確かにっ!
天使とそんなに会えないのは死活問題よ!なにより私が耐えられないわ!
ギースの胡散臭い笑顔が気になるけどこの際少しでも早く現地に到着したいのも事実だし、青白い顔をするモーリスを横目に同意するのだった。
大鳥は1羽につき2人まで乗れるので、2羽用意された
既に操縦をマスターしている陛下と、騎士団で練習済のゲンが操縦して、私とモーリスが乗せてもらう事になったのだが、当然の様に私を自分の大鳥に乗せようとする陛下に
「護衛の私がバネッサ様と離れるのは良くないと思うのですが?」
と、ゲンが進言する。
「な、なにを言ってるんだ!ぼく達はふ、夫婦だぞっ!」
結局は、さすがに国王に逆らう事は出来ず私と陛下、モーリスとゲンで出発する事になった。
実は私、前世では絶叫マシーンが大好き!
ジェットコースターもフリーフォールも大好物だった。
まさか、この世界でも体験できるなんてちょっと年甲斐もなくワクワクしてしまう。
そんな事情も知ってるゲンはニヤニヤしながら相変わらず青い顔のモーリスをエスコートして大鳥に乗る。
さあ!私もっ!!
陛下の手を借りて大鳥にまたがるが、意外と安定していて、鳥さんも人を乗せるのに慣れてるのね…などと思った。
いざ出発すると、程よいスピードでスリル感はあまり無いけど、風を切って行くこの感じが気持ちよくて、私は楽しい楽しいと連呼しながら笑った。
後ろで操縦している陛下が
「聞いた話と違う…」
とかブツブツ言ってるし、あんなに青い顔をしてたモーリスもギャーギャー元気に叫んでるからきっと楽しんでいるのでしょう。
そんなこんなで、グレイン領への旅は楽しくスタートしたのだった。




