好意を伝えたいのに(レオナルドside)
「あのダーゲンとか言う護衛騎士と親しすぎやしないか?」
僕は最近気になっていた事をギースに愚痴ってみた。
「いつも楽しそうに笑って話してるし、かと思えば何か真剣な顔してコソコソ話してるし、とにかくなんか距離が近い気がするんだ」
僕のいつになく饒舌な言葉にギースは深くため息をひとつ吐いた。
「護衛騎士なんだから近いのは当たり前だろ?レオお前どれだけバネッサの事見てるんだよ…」
オスカーのお披露目が終わり王妃宮から外へ出る事もあるだろうと新たにバネッサに付けた護衛騎士のダーゲン=ドリュフ。
最初はバネッサと上手くやっている様子に安心していた。
と、言うのもバネッサは王妃なのだから当然以前から護衛は付いていた。
が、しかし…続かないのだ。
少しでも気に入らない事があるとバネッサがクビにしてしまう。
本来なら王妃の護衛騎士と言えば出世街道だし騎士ならば誇らしく思う任務のはずなのだが、バネッサの我儘のせいで最近は敬遠されていた。
出産を機にしばらくは外に出ないからと言う建前で護衛騎士の指名を先送りにしていただけだったのだ。
そもそも、騎士達には悪評高いバネッサの護衛騎士を進んで引き受けたって事から怪しかったんだ…
きっとダーゲンはバネッサの事を好ましく思っているんだ。
あんなに美しく、聡明な女性なんだから好意を寄せられるのも納得できる。
僕の不安気な顔にギースが気がついたのか、わざとらしく明るい声で言う。
「そもそもバネッサはレオの事が大好きだろ?何を心配してるんだ?」
そう…
前まではそうだったが…
今はバネッサが僕をどう思っているのかまったくわからない…
嫌われてはいないと思う(思いたい)が以前の様に熱烈に好かれているとも感じない…
「バネッサから来ないならレオから行くしかないだろ?」
そう言って、ギースは最近令嬢の間で人気のカフェを教えてくれた。
「バネッサはチーズケーキが好物だから、連れて行けば喜ぶぞ」
でも今は甘いお菓子は食べないんだよな…
「今はオスカーのために我慢してるだけだろ?たまにはご褒美で甘えさせてやるんだよ」
おおーー!!
ギースのヤツ、婚約者どころか彼女すらいないはずなのになんて高度なテクニックを知ってるんだ!
そうなんだ…
僕は自分からバネッサに好意を伝えた事が無いんだ。
ひたすら避けて、関わらない様にしてきたのにバネッサだって、急に僕が近づいたら困惑するだろう。
まずは好意を伝える事から始めなくてはならない。
そう決意して、カフェにデートの誘いをするつもりで王妃宮へ向かったのだった。
王妃宮に着くと部屋の机に座り、何か考え込んでるバネッサをすぐ見つけた。
よほど真剣なのか、僕が来た事にも気がつかない。
「ゲンに付いてきてもらえばいいか…」
その時、バネッサの言った独り言に僕は胸がギューッと痛くなった。
またダーゲンか!
そう思うと怒りさえ憶えた。
「ダーゲンとどこに行くつもりなんだ?」
と、強引にその役目を奪い取った。
が……
なんだ?なぜディテールの森に?
バネッサがすごい勢いで魔力を集めているのは感じる。
黒い闇が見えるから闇属性の魔法なのだろう
はじめて見るバネッサの壮大な闇魔法に僕は言葉も無く呆気に取られていた
少しすると、特に目に見て何か変わった様子は無いが、終わりましたとバネッサは言う。
いったい何をしたんだろう?
その答えはもう少し後に分かる事になるのだが、
「じゃあ陛下、帰りましょう」
とあっさり言うバネッサに僕は非常に焦った。
だって今日は…
カフェデートをして好意を伝えると決めていたから。




