優秀な国王だから(レオナルドside)
「で、どうだった?」
今日の僕は上の空だと自分でも分かる。
片付けなきゃならない山積みの書類も減る気配がない。
昨日バネッサと食事した後で初めて息子のオスカーと会った。
この状態の原因だろうが、どうすれば良いのか分からない。
そんな僕の様子を見て隣で同じく書類を手にしていたギースが聞いてきたのだ。
「ああ…お披露目は了承してくれたよ」
そうか…
と返事して何も聞いてこないギースに焦れた僕は自ら聞いてみる。
「あれは本当にバネッサか?」
書類から顔を上げたギースが(だろ?)と言わんばかりの顔で僕を見る。
「全てが違ったんだ」
外見の変化はモーリスに説明してもらったから何となく分かる。
食事の改善と母乳と魔法の常用の賜物らしい。
しかし、身に着ける物も上品で今のバネッサに似合っていた。
そう言えばキツイ匂いもしなかったし、性格も好ましく思えた…
別人だと言われた方がまだ納得する。
「それに変な気持ちになった」
ん?
と、視線だけで聞き返してくるギースに僕は説明した。
目を見てくれないし、陛下と呼ばれると何かモヤモヤした事。
若い料理長に笑いかけてるのを見て痛みを感じた事。
偶然、はだけた胸元を見たら顔が熱くなった事。
「レオ、お前それって…」
え?ギースには分かるのか?
期待したけど正確な答えは教えてくれなかった。
「これからはもっと会いに行ってみればいいんじゃないか?」
またバネッサに会いに行く…
そう想像しただけでまた耳に熱をもった。
「嫌じゃないんだろ?」
嫌…では無い。
「まあ、一応はレオの妻なんだし、会いに行っても何の問題もないだろ?」
そうか!
バネッサは僕の妻なんだ。
僕だけの…
そう思うと、胸がスッキリした。
僕は王子の時から優秀だと言われて来た。
わからない事は必死に学んだし、欠点はなるべく潰してきたつもりだ。
気が弱いとか優柔不断とか言われる事はあったが、今は有能な周りに助けられながらも国王として国を治めている。
そうだわからない事は学べば良い。
僕は暇が出来れば王妃宮に足を運んだ。
バネッサも初めは迷惑そうな顔をしていたが、僕がオスカーを抱っこすると優しい目で見ている。
「陛下は赤子の扱い方が上手ですね」
バネッサが不思議そうな顔で誉めてくれると、何故だか嬉しかった。
妹のアリスがまだ赤子の時、たまに面倒を見ていたからだと答えると、納得した様に
「良いお兄様だったのですね」
と笑顔を見せる。
僕はバネッサの笑顔に弱いと気がついた。
ある日、バネッサが何か怪しい事を計画しているとモーリスから聞く。
お食い初め?
なんだそれは??
どこかの国の風習で子供の将来を祈願するものらしいが聞いた事が無いし、教会も通さず祈願とはどういう事だ?
そこに1通の手紙が届けられる。
差出人はレパール王太后…母上だった。
母上もいつの間にかモーリスから僕と同じ報告書を手に入れていた。
常々オスカーに会いたがっていたし、またお披露目の催促だろうと封を開くと予想のはるか上を行く事が書いてあった。
「私を乳母に任命しなさい。(お食い初め)に参加します」
とうとう力技に出た様だ。
母上が参加されるなら僕も行かなくてはならないな…
と、言い訳がましく思いながら顔がニヤけてしまうのを必死に隠した。
そしていざ(お食い初め)のために王妃宮へ行ってみれば、怪しい儀式かと思えば1つ1つにちゃんと意味があり、変な丸い石さえ子供を思っての物だった。
母上も嬉しそうにしているし、オスカーも華やかな雰囲気に機嫌が良さそうだ。
乳母達も知らない国の風習ながら深い親の愛情を感じる不思議な儀式に皆が思う所があった様だった。
そして優秀な王子から優秀な国王になった僕は…
この温かく幸せな気持ちが何なのか少し分かった気がした。




