敵国に助けられた少女
村の井戸に毒が入れられた。摂取した毒の量が少なかったのか、もしくは奇跡的に耐性があったのか、村人がみんな死んでも私だけが生き残っていた。とはいっても、それは最後の時間を延ばす程度の効果しかなかったけど。私は意味のない雑音を口から吐き出しながら、ただ苦しみと絶望に悲観していた。
そこに馬に乗った男がやってきた。その男は悲痛な顔をして、私を抱え、白衣を着た人達に何かを要請した。白衣の人達は難色を示していたが、男が何かを見せると慌てて治療を開始した。
私はどうせ、助からないと思っていたが、白衣の人達が凄腕だったのか命を長らえることが出来た。回復して、正常に周りを認識することができたら、なぜ私が助かったのか理解した。
それからは流れるように時間が過ぎていった。怒鳴り声、血。そういったものを私は無表情で見つめながら、少し時がたった後、私を村から連れ出した男が私を豪華な屋敷に連れてきた。そして、私は男の養女になった。・・・私の村の井戸に毒を入れた国の貴族の養女に。
数年がたった。私の養父はよそよそしく、何かを頼んだら奴隷みたいに何でも叶えてくれた。私はそんな養父の姿を見て、何ともいえない感情を抱く。
幸か不幸か、他の家族との仲は悪くない。養父の正妻は私に配慮してくれたし、兄も無神経に、ある意味では家族らしく、喋ってくれる。
明日からこの国の学園に通う事になる。私は自分が何をするべきか何をしたいかは分からないが村のことを忘れたくないと思っている。心が定まらないまま夜は更けていった。
この国は綺麗だ。学園では大貴族の養女という事情から色々トラブルもあったがそれも友人や家族の力で解決して、平穏に暮らしている。
ある程度、生活が落ち着いくと分かる。この国は豊かだってことが。水をわざわざ取りに行かなくていい。土を長時間耕さなくていい。土地の栄養が豊富で食べ物が育てやすいらしい。
その余剰を活かして色んなことをしている。踊ったり、おしゃれしたり色々。でも、裏路地ではそこから落ちぶれた浮浪者がごみのように転がっている。満たされたものは満たされる者だけで、隣には食べ物があるのに食べれない。
役に立たない者はいくらでも捨てていい。食べ物が余っているからこそ、人も余るのだろう。うちでは人も食べ物も節約するしかなかった。そして、人が余ると争いも絶えない。少し、脇道に入るとそこでは事件が常に起きている。
豊かさとは血だ。この国の人達は平和なんか求めていないのかな。私はただ、友達や家族が生きていてほしかっただけ。この国はとても綺麗で楽しいけどそれは血でまみれている。あの時の村で死にたくないと呻いていた時の記憶が叫ぶ。
だから、私は警察官になることに決めた。多分、私はこの国のいい所だけ見ても満足できない。私の心を満たすには見たくない事を見る過程が必要なんだと思う。
そして、警察官という立場は何かが起きた時、色々なことができる立場だ。力が欲しい、何かがしたいと思ったときにそれに触れられるように。