異能開闢~繋がる手のひら~
彼を一目見た時、寂しそうだと思ったの。
皆からは頼りがいがある人だと思われていたから困った人からよく相談を受けられていた。あの落ち着くような雰囲気が頼りやすかったんだと思う。でも、彼が頼るような人はいなかったように思う。
あの寂しそうな雰囲気が嫌で彼が本を読んでいる時いつも声をかけていた。邪魔だと思われていなかったならいいんだけど。
いつああなったかはわからない。きっかけがあったようにも思えない。いつの間にか誰かを傷つけることが許容されるようになった。
注意しても何も変わらなかった……本気で変えようとしなかったのかも知れない。
そして、その恨みは爆発した。大騒ぎになって学校側は喧嘩両成敗ということでどちらも退学になった。おかしいと思ったけど、おかしいのはその後のことだった。
クラスの雰囲気はまるっきり変わってしまったの。私が見ていたのが偽物だったように苛つきと憎しみが噴出して、誰もが誰かを傷つけるようになった。私も友達に自分が分かっていなかったこと、でも友達が苛立ったことをぶつけられた。そうやって、私も友達に苛つきをぶつけた。
そういう雰囲気になったらそのときは何も思っていなかった時も思い返せば苛ついていたと言うことにしてしまい、何でもイラつきの対象になった。
そうやって、クラスは変わり果ててしまった。彼はいつもそれを止めようとした。でも、クラスは止まらず、彼に対しても苛つきをぶつけた。
そして、それはクラスだけでは止まらず、いつの間にか学校ごと、果てには街自体が刺々しい雰囲気に包まれた。そして、あの日がやってきた。
その日は前日に親と喧嘩して逃げるように学校に行った。教室に向かうまでも刺々しい雰囲気に満ちる。皆が嫌な気持ちにならないように黙って勉強する。昼飯も一人で食べる。
黙っていられなかったのか、ある子がある子を責めた。それから洪水のように悪口の合唱会になり嫌な雰囲気が頂点に達したその時……火に包まれた。
何もない空間から火が出て、クラスが火の海に包まれた。皆がパニックに陥って狂騒に駆られたように教室を飛び出した。途中で踏まれる人も気にせずただ走った。
そうして学校を出ると街中が燃えていた。私は、校庭に座り込んでしまった。皆は学校を飛び出していったんだけど、もう逃げる気力も湧いてこなかった。
最後に思ったのが彼のことだった。彼はどうしたんだろう。パニックだったけど、彼は一緒じゃなかった気がする。
いや、そもそも今日彼は教室にきていなかった? そんな時私の心に彼の情景が浮かんだ。この街で一番高いビルの屋上で街を見下ろしている。不思議と疑わず、私は屋上に向かった。
高い階段を登りやっと屋上についたそこには彼がいた。
「これが世界だと思わない?」
分かった。不思議と彼の気持ちと記憶が流れ込んでくる。この街の原因が彼だということにそして、ここまでしてしまった彼の感情に涙を流した。
彼が屋上を飛び降りた。咄嗟につかもうとするけど、つかめなかった。彼は安心したような評定して落ちていった。
彼が消えて、炎も消えて静まった街で雨が降った。皆は夢から覚めたような表情をしている。でも、今回で知ってしまった皆の感情は記憶から消えない。怒りと憎しみ、燃えるような感情その痛みを。ヘリが街を飛んでいた。
あれから大騒ぎになった。急に街が火に包まれて突然に消えたのだからそれも当然。世間は超常現象だと大騒ぎだ。しかも、あれから別の街でも急に東京タワーより高い木が生えたり、極寒の地域になったりと、おかしいことが起きているらしい。
ほとんどの生徒は別の地域の学校へ転校した。まああそこまで燃え盛ったんだから一緒にいられないでしょうね。でも私は学校を辞めた。家族からはとても止められたけど、振り切った。これが私の道だと思ったからだ。
彼のことを知る私だけが出来ることがある。彼がやったことは最低だと思う。人を燃やして街を燃やした。でも私は彼を嫌えない。ずっとそのように世界を見てきた彼だった。その世界が現実に影響をもたらしてしまっただけ。
多分、可笑しい現象は彼のような人が生み出しているんだと思う。この能力を得た私だからこそ出来ることがあると思う。
キャップをしっかり被り、前を見据えた。私の世界は変わった。もう皆と同じ世界観を共通しない。
でもそんなのは本当は当たり前皆見ている世界は違う。だからこそ手をつなげると思う。皆が燃えるだけじゃない。皆が手を繋げる。私はそう思っている。いや、それが私の世界観なのかも。少し笑って歩き出した。




