吸血鬼の愛
血がまずい。せっかく、村を滅ぼして手に入れた厳選した子供の血なんだがまずいとは。とてもがっかりだ。
ぎぃぃ。扉が開く音がする。私の愛する妻がきた。残念だが無表情のままだ。
「いやあ、残念だったよ。次こそは君が美味しいと感じる血を用意するね」
「私は求めていません」
妻はいつもどおりの返事を返す。
「そんな事言わないでくれ。君が生きるにはもう血を飲むしかないんだ。君は本当に最低限しか飲もうとしないだろう。いや、分かる。人間から変わったばかりだ抵抗はあるだろう。でも、飲まないと死んでしまう。それに、我ら吸血鬼に血は力だ。聖騎士、ハンター敵は多い。そのために血をいっぱい飲んでいてほしいんだよ」
説明するが愛する妻は表情を変えてくれない。
「だからなんでそれが厳選する理由になるんですか」
「美味しい血を飲めば食事を楽しくなるだろう。楽しくなればいっぱい飲むようになるし、生きるのに欠かせない行為だ。なら楽しんでほしいと思う」
妻は少し悲しそうな表情を浮かべた。なぜかは想像できるが実感は出来ない。
「あなたはそうなんですね。私がなんで止めるのか分かっていますか」
「分かっている。人間に同族意識を抱えているのだろう。だがね、あれはもう餌だ。餌なんだ気にすることはない」
人間だって豚を牛を食べる。同じように感じれば良い。
「あなたも人間だったんでしょう。何も感じることはないのですか」
「昔の事だしな。それに他人だ。どうなろうがどうでも良いよ」
「なら、なぜ私を吸血鬼にしたのですか、私も他人だったでしょう」
確かに、大切な人は最初は誰しも他人だ。しかし
「でも、もう他人じゃない。たとえ君が元は他人だとしても今は違う。常に今がどうだかだ。それに、もう君がいる。だからこれ以上大切な人なんて求めていないんだよ」
妻は、覚悟を決めたような表情をする。私の説明にやっと吸血鬼として生きる決意を固めたんだろう。
「そうですか、わかりました。では明日からはちゃんと飲みます」
「そうか、良かった、分かってくれたんだね。つらいだろうがこれは必要なことなんだ。明日には最高級のもので乾杯しよう。いや、今から用意しようか」
「いえ、少し準備が必要なので。では失礼します」
寝ていると、少し音がして目を開けると。愛する人が杭を振り下ろしている。とっさに止めた。なっ。いつも愛する人とは思えないほどの力だ。全力を出さないと抑えられない。
「なっ、なにを」
「血を飲めば力になるでしたっけ。さっきまで死ぬような思いをしながら保管庫の血を全て飲んできました。これであなたにも一時的には力を上回れます」
愛する人の口元には血が滴っている。
「ばっ、馬鹿なことを! 吸血でも力を蓄えすぎたら死んでしまうんだぞ」
「こんな時も私の心配ですか……ええ確かに身体から溢れ出しそうです。死ぬかも知れませんね。でも、良いんです。私も死ぬつもりですから。あなたの言う通り生きていくには血を飲んでいくしかありません。でも、血を飲んでまで生きていく気はありません……それに、あなたにも恩はありますしね。一緒に死んであげますよ」
私は最後の言葉を聞くまで、なんとか愛する人の力を奪って生き残り、監禁してでもふたりとも生き残ろうとしたが。その言葉を聞いて少し緩んだ。
杭は私の胸を貫く、灰になる直前。私の頭が想像したのは吸血鬼にする前の彼女の笑顔だった。もう一度見たかったのに。愛する人に手を伸ばすが灰になって届かなかった。




