最も美しい世界の終焉
雪が降り注ぐ。
ぼろぼろの服を来た黒髪の獣人の娘の足跡が、白い大地に淡く刻まれていた。その背中は細く、小さい体は震えていた。冷たい風が吹く中、彼女は立ち止まり空を見上げ続けていた。
空には何もない。
雲も、星も、何もかも消え去り、ただ黒い暗黒が空間を歪ませるように渦巻いている。世界が終わる。誰かが告げたわけでもなく、誰かが説明したわけでもない。それでも、何も教育を受けていない無学の奴隷の少女でさえも、それを直感していた。
──雪が降り注ぐ。
彼女がここにいる理由は一つ。夜のうちに川へ水を汲みに行くよう命じられたから。
命令は絶対だった。どれだけ寒かろうと、暗闇であっても、それは彼女の反応が薄くなり興味がなくなった主人からの死出の命令だった。逆らうことなど彼女にはできない。彼女は歩き続けた。雪が振り始めても気にせず。
凍傷で動けなくなり、最後に空を見上げた瞬間彼女はやっと気付いた。全ては終わったのだと。
……村や街は今、空の異変に気づき、終焉の予感に怯えて騒乱の渦中にある。それでも、この場所だけは静寂に包まれていた。
だから、たった一人で終焉を味わえた。
ただ、雪が降り積もる音だけが響く。冷たい空気が肺に刺さり、喉は凍りつく。それでも彼女は空を見上げ続けた。そして、喉が少しだけ動く。
「●●●」
白い雪は、全てを覆い隠していく。苦しみも、怒りも、希望も、絶望も。雪は降り続ける。冷たく、静かに……そして、誰の上にも平等に降り注ぐ。
少女は最後、涙を流した。
──雪はただ振り注ぐ。




