安寧の神の形
「安寧の神なんて滅ぼせばいいだろ」
「はっ!? 何を言っている!」
「安寧の神を崇めるアイツラによって国の生産性が下がっているんだろう。なら、無害な神とはいえ邪魔だ」
「……はぁ。まず、安寧の神がいなくなっても生産性は上がらない。むしろ、信者たちに暴動が起きて混乱状態になる……なにより、安寧の神をなぜ滅ぼせると思うんだ?」
「? 我ら帝国は邪魔な神たちは滅ぼしてきたじゃないか。その中にはもっと戦闘を目的とした神もいた」
「確かに安寧の神の目的は人の安らぎだが、だからといって戦いが弱いと限らないだろう?」
「どういうことだ?」
「目的の穏健さと力は比例しないという事だ……その思考もな。安寧の神にとって安らぎとは仕事であり目的だ。分かるだろう? 目的と手段は常に一緒か?」
「…………つまり」
「奴は最終的な安寧という目的なら非倫理的な手段を取ることも気にしないし、人々の平穏を脅かすことを気にしない。それに戦略的で、自力も桁違いだ」
「そんなもの早く討伐したほうが良いだろう」
「無理だし、もう手遅れだ。根は奥深く張り巡らされているからな」
「それでも、放置しておいたらより厄介になるだけだろう」
「……聞け。安寧の神は確かに厄介だが、人類を気にしている分まだ“マシな方”だ。もっと人類に敵意を持ち、滅ぼそうとしている神々もいる。」
「だが、それでも……」
「わかっていないな。これまで滅ぼしてきた神々は、奴らが人類を舐めてかかり、自らの力を過信していたからだ。それに比べ、安寧の神は“能動的”なんだよ。裏で戦力を蓄え、必要ならば戦う準備を整えている」
「……つまり、どうしろと?」
「強い神を滅ぼすことは現状不可能だ。だから、“よりマシな存在”に生き残ってもらう。それが俺たちの選択肢だ。理解しろ、実際神が全力で来たら我ら人類は負ける。力関係を意識したほうが良い」




