個人とみんな
「私は『救世主』となって、世界を救います」
彼女の宣言はとても静かで、いつも元気な彼女とは様子が違った。
「君は君自身だろう。人は役割に何かなれない!」
しかし、俺の言葉に欠片も動揺せず彼女は言う。
「……私がその役割の全てじゃなくても象徴にはなれる。そして、この世界は象徴になれば力が手に入る理がある世界。なら、象徴になるだけの価値があるでしょう」
「人は人のままであるべきだろう!」
俺は声を荒げるが、彼女の視線は冷静で鋭い。
「あなたが個人性を尊ぶのいいですが、それで今あるシステムを否定するのは本当に正しいことですか?」
「そういったシステムが無かった時代を懐かしんでいるだけでは……貴方も役割を、象徴を、代弁者としての立場を担うべきです。貴方は何なんですか? 個人の思いで行動するだけの人ですか? 自分のトラウマを回避出来ない人ですか? それで世界を変えて良いんですか? それは昔の話ですよ」
彼女の声が早くなる。
「今はみんなが決める世界。皆の意思が象徴を選び、象徴が世界を変える……世界を変えようというのだから少しは世界を背負ったらどうですか?」
彼女は冷静な口調だが、瞳の奥に怒りが見えた……ずっと、怒っていたのかもしれない。いつだって俺は世界のことなんてどうでもいい。個人のことばっか気にしている……でも、君も気にしているのは個人のことなんじゃないか?




