罪に濡れる
「前に悪人を殺した事があったよな」
あの頃の事を思い返しながら語る。返事はないが、相手もその出来事を覚えているだろう。
「……あの頃の自分は、苦しみながらもやっていることが正しいと思っていた。今でもあの選択が間違っているとは思えていない。だが、あの時やったからと罪に濡れるのが当たり前と思ってはいけない……あんたが俺にそう思わせてくれたんだ」
「……だから、どうしたんですか。もう、どうしようもないじゃないですか」
「…………あんたが好きだ。だから、あんたを殺したくない」
「ふふ、正義のために人を殺したというのに、私情で辞めるんですか?」
何も言葉を返せない。あの時の決断で離れていった仲間もいる。
「仕方ないことなんですよ」
「…………」
「最後に一つだけ……悩み続けてください。それが正義なのか、それともそうじゃないのか。苦しいことだと思いますが、あなたならきっとできると思います」
その笑顔が余りにも気に食わなくて、心の一線が切れた。多分ずっと求めていた答えなんだろう。
「…………やっぱり嫌だ! あんたを殺さない!!」
「なっ……! ここまできて、何を言っているんですか! 私を殺さないと大勢が死ぬんですよ! もうどうしようもないんですよ!!」
「ここであんたを切り捨てたら、これから先。悩み続けて! 結局殺し続ける道を歩むことになる。そんなのは嫌だ。悩み続けろというのは、決断する。あんたを生かす!」
「あなたは……」
「辞めろと言っても聞かない。無理矢理でも連れて行くからな!」
これは裏切りかもしれない。でも、俺は自分の心に従う。




