霊能予算
「危険だと言うのにそれだけ!?」
通話先の男の声が怒りに満ちている。私の提示した報酬はあまりにも安すぎたせいだ。
「すまない」
私は申し訳無さを感じながら謝罪する。彼はどこにでもいる偽霊能力者ではなく、有能で口調は軽いが正義感を秘めた人物であることは知っている。だからこそ、満足な報酬を払えないことがとてつもなく悔しい。もう少し、上がこの仕事の重要さを理解してくれれば……。
「……はあ、まあ良いよ」
「いいのか!?」
彼のあっさりとした返答に驚き、思わず聞き返してしまった。彼はその失礼な質問にも気にせず答えた。
「昔なら後1時間は交渉していたけど、最近は色々な哲学書を読んで、仕方ないのかもしれないと思い始めているんだ」
「哲学書? それが何か霊能と関係があるのか?」
私の問に、彼は少し考えるように間を置いてから答えた。
「関係あるっていうか……人は必ず死ぬけど、実際には死ぬとは思っていないんだと」
「……?」
彼の言葉に私は戸惑う。
「いや、もし本当に死ぬと思っていたら、もっと真摯に生きるだろうって話さ。自分の人生ってなんだろうって悩むはず。実際はあまり人生の意味とか考えず生きていく。例え余命が3日と言われれもまだ3日もあると最後まで死なないと思い続ける生物なんだって、人間は」
「確かに……そうかもしれないな」
「そして、霊能ってのは死に近い業界でしょ。そう考えると嫌がられるのも当たり前といえば当たり前なのかもってね」
彼は人間が持つ死への忌避感を元に都合よく解釈してくれた。確かに。彼が力を貸してくれなければ大きな被害が生まれてしまう。だが、その善意に漬け込んでいるのが現状だ。
「…………」
「まあ、国からの仕事をこなすと信用も上がるしね。報酬は少なくとも別のメリットは有る。それに目をそらされるってのは逆に縛られず好きにできるということでもある、別にいいさ」
彼は軽く話しているが、その言葉には彼の善意が多く含まれているのが明白だった。
「……すまない。そして、ありがとう」
「いいって、いいって。それよりも依頼の詳しい情報を教えてよ」




