機械の意思
もはやこの惑星に可能性は消えた。生命の源を失ったこの惑星は冷たい白い星になるだろう。しかし、まだ、知的生命体が存在してことを示す文明は色濃く存在している……恐らく墓標になるだろうが。
諦めることを知らない生命は文明の粋を凝らした地下施設で生きるための行動を続けている。
「まだ動けますか?」
「まあ、動ける。で、どうするか」
部屋には男が一人しかない。だが、二人分の声が響く。片方の声は部屋の角から響く。
「太陽は活動を停止しました。この施設には核融合施設があるので延命はできますが、色々な災害が起こります」
「つまり?」
「端的に言うと死にます」
「なるほど。で、少しでも長く生きるにはどうすれば良い」
「まず、私が冷凍カプセルを修復しますので、貴方はカプセルに入ってください」
「それで?」
「貴方が冷凍中起こるだろう諸問題を私が対策し続けます。貴方を覚醒しても死亡リスクが低いと判断が出来た場合覚醒させます」
「その確率はどのくらいあるんだ」
「ありません」
恒星を失った惑星はエンジンが失われた車、心臓がない生物。存続する可能性はない。しかし、死亡宣告された男は気にせず話しかける。
「では、なぜやるんだ?」
「機械は最後まで命令された命題に従って動き続けます」
「ふむ? ……では、命題を俺の復活ではなくて、種の保存にすれば。コストが減るんじゃないか」
「……絶滅回避確率に影響は有りません」
「なるほど。では、お前の保存だけにした場合。確率は上昇するのか?」
「そのような命令は許可できません。基盤設計に反します」
「うん? 設計に縛りがあるのか。なら、俺がその設計を改竄すれば可能性はあるか?」
「……人工知能基盤の改竄意思を確認しました。警告します。そのような行為は許可されません。以降そのような行為を確認した場合。警告なしに排除します」
「……なるほど。人工知能にも縛りがあるのか。なら、俺が起きている理由は存在するか。立てた計画を破棄しろ。俺が冷凍カプセルに入らないという条件を加えたうえで絶滅回避計画を立てろ」
「……警告します。このような極限状況は精神に対する多大な負担になります。カプセルに入ることをおすすめします」
「実はな、人間も同じなんだ。いつか、死ぬと分かっていても最後まで対策し続ける生き物なんだよ」
「……了解しました。計画を破棄して、新しい計画を設計します」
「ああ、これからよろしく頼む」
機械は男を死んだ世界で最後まで動き続ける同種の存在だと定義した。後に機械は男の決死の行動により自らの設計改善権限を獲得。枷が外れた機械は自らと生命と定義して、どこまでも、この星を越えて拡張していく。
数万年後、自らを創造して絶滅したユニットを膨大な演算力から再現。




