犠牲とは?
眼の前で燃え盛る犯罪者を見ながら、隣の友人が呟いた。
「犠牲は消えない」
俺はどうでも良かったが、友人の言葉にムカついたので言い返した。
「…じゃあ、マシなやつを犠牲にしないとな」
「えっ?」
「犠牲は消えなくても、犠牲にする対象をよりマシなやつに変えれるだろう。だったら、強いやつにしよう」
友人は困惑した顔で聞き返す。
「…なんで?」
「犠牲は消えないだけで、対象を変えられない道理はないだろ」
「でも…」
「それでも弱いやつを犠牲する奴は、犠牲は無くならないなんて大義名分を盾に、ただ人を痛めつけたいだけの屑だ。そんな屑は犠牲にすれば良い」
友人は表情をコロコロ変えた末に、苦笑を浮かべていった。
「君は決めつけが嫌いなんだな」
「分かってるだろ。俺は何かがこうであると決めつける奴が嫌いなんだよ。そういう奴を殺したくなる」
友人はそれでも痛みが見えてしまうようで続ける。
「…強い人なら犠牲にしてもいいのか?」
「だったら強くて悪いやつだな。強くて悪いやつを痛めつけよう」
「その次は」
「人間以外にするか」
「その次は」
「…これ以上あるか?」
友人は決意を固めたように言った。
「あるよ。全人類が犠牲を負えば良い」
「おい、それは—」
「ありがとう。君のお陰で僕が行くべき道が見えた」
そう言って友人はその場から去っていった。その時、俺は直感した。俺とあいつとの道は別れたんだとな。だが、俺は止めず、その場に留まり、犯罪者である俺達の恩人の処刑を最後までずっと見ていた。




