私は雨が好き
ガラスに触れる。掌には冷たさが、耳には雨粒がアスファルトとぶつかる音がする。
「雨が降っていますね」
「……そうだね」
彼はこちらに目を向けず本をめくる。こちらも彼に目を向けない。
本がめくられる音がする。掌の冷たさと紙の音、雨粒…………綺麗……世界が洗われていくよう。その静けさと寒さに私は浸った。
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……ぁ、没頭しすぎた。今は何時だろう? 時計を見ると一時間過ぎている。周りを見渡すと彼もいない、どこにいったんだろう。そう考えると、台所から包丁がまな板を叩く音がした。
「……ん、いつも美味しいです」
「どういたしまして」
いつも彼はかっこいい。静かで冷たくてまるで雨みたい…………私は雨が好き。
「……あの」
「どうした」
「少し外にいきませんか」
「……いいよ」
私達は準備をして玄関の扉を開ける。雨はより強さを増して降り注ぐ…………こんな雨の日に急に外に出ようと言っても、彼は聞いてくれる。私はそっと彼の手に掌を合わせた。彼は何も言わず寄り添ってくれる。
雨に包まれる。冷たさと静けさがまるでカーテンのようで……ただ、彼の掌だけが温かい。不思議と私はその熱が嫌いじゃなかった。




