魔物のメカニズム
俺は本能的な恐怖を感じて、慌てて茂みに身を隠した。
向こうから、3つの頭を持つ巨大な狼がやってくるのが見えた……あの獣には絶対に勝てない。見つからないようにしなければ、縮こまって神に祈る。
「ふう、見つからなかった」
「良かったすね。旦那」
案内役のポーキは飄々とした口調で言った。
「あれが魔物か……疑問なんだが魔物ってなんなんだ。俺の故郷では見たことがない。迷宮から生まれるとは聞くが……」
「ああ、皆さんそんなイメージですよね。でも、実際には迷宮に魔物らしい魔物はいないんですよ」
「どういうことだ?」
「まずメカニズムを言うとですね。迷宮に魔物の幼体がいるんすが、そのときは外界に無反応で弱いんです。そして姿形も化け物じゃない。動物の形そのままをしています。
……ですが、変異を起こして、ああいう化け物になると迷宮から一直線に出てくるんす」
「……つまり」
「つまり、迷宮には魔物の素体はあっても、想像するような魔物はいないってことっす」
「……なんだか、兵器工場みたいだな」
「まさしくそうっすね。ちなみに、魔物の行動原理は似ている生物の殲滅っす」
「どういう事だ。人間たちの天敵と聞いたが」
「さっきの魔物走っていたっしょ。多分狼を匂いか何かで感知してそれに向かっているんじゃないかな」
「なら、人間には影響はないのか」
「もちろん悪影響っすよ。狼の数だけ減らすとその餌が大繁殖したりして生態系に狂いが生まれるっすからね。
でも、だからこそ助かっているとも言えるっす。もし、人間を優先的に滅ぼす魔物が出てきたらは大変っすよ。いまでさえギリギリなんすから」
「確かに、さっき見た化け物がこっちに向かってくるのは怖いな」
「まあ、なんにせよようこそ。人類社会から見捨てられている魔物の楽園、ジェスパーダへ」




