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怒りと嘆き
怒りとは嘆きのことだ。だから俺は暴れまわる彼を止めることは出来なかった。俺の変わりに暴れ回ってくれているから。
俺たちの村は隣国によって虐殺された。たまたま、交易しに隣村に行っていた俺たちだけが生き残った。転がる亡骸のなか俺たちは黙って歩いた。だが、家族の亡骸を見つけた奴は亡骸を片手に声も押し殺して泣いていた。俺は涙が流せなかった。ただ、世界が薄くなったような気持ちがしただけで。
そうして、俺たちは墓を作り誓い合った、騎士になると。その誓いは俺たちを押し上げ、農民でありながら騎士になることが出来た。今、俺達は隣国と戦っている。奴は暴れ、俺は静かに殺している。奴の感情が奴の怒りが俺が流せない涙を流してくれているような気がしたんだ。今日もまた、隣国と戦い続ける。ただ、風とともに。




