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最後の犠牲


 狼型の魔物の群れが襲いかかってきた。その時に魔物のボスの巨大狼は倒すことができたが。その隙に街の人々は食い散らかされた。


 街を支配し圧政の限りを尽くしていた吸血鬼を消滅させることが出来たが、吸血鬼になった人は処分するしかなかった。


 よくあることだ。自分は別に気にせず日常を送ることができた。犠牲になった被害者の縁者の逆恨みすらも気にせずただやるべきことをやり続けた。


 夜、眠れなく。部屋を出る。音が聞こえる。仲間の部屋からだ。仲間は失われた犠牲を悲しんで涙を流している。自分は声をかけず。その場を離れた。昼間に慰めたが仲間の悲しみは言えていないようだ……仕方ないそういう価値観なのだろう。


 しかし、思ってしまう。犠牲に悲しまない自分は例え大事なものが失われたとしてもその現実に適応してしまうのではないかと。


 悪いことではない。しかし、どこか悲しいかもしれない。




 そんなことを、仲間の死体の前で思い出した。蟲の集合体たるリッチを滅ぼす事は出来たが、仲間が無思慮に人質に近づき、中で繁殖していた蟲に噛まれた。


 自分ができるのは。腸が食われて苦痛を感じる前に介錯を行う事だけだった。


 蟲は死体も餌にするからすぐさま焼却をする必要がある。しかし、横たわる死体の前で少しの間立ち尽くしていると手のひらに雨がポツリと。


 ……ああ……雨の中では炎がつけづらいな。自分は降り続ける雨の冷たさに全身を凍らせながら、上をずっと見上げていた。灰色の、曇天の空を。


 戦い続け、仲間は何度も移り変わった。無事に立っていられるのは加護を持つ自分だけだった。加護を持つ他の人達は地方に散らばっている。仲間は普通の人々だけだった。




 魔王、諸悪の根源。魔王が生み出した魔物の被害は増え続けていくだけだった。いくら倒してもそれ以上のスピードで増えていく。しかし、今までの犠牲が道を開いた。魔王の居場所とそこにたどり着くまでの道を解明させた。人間勢力は最後の力を振り絞り決戦の準備を行った。


 また一人、また一人死んでいく。人間がゴミのようにバラバラになっていく。この場に置いて、普通の人は肉壁としての役割しかなかった。しかし、皆がその役割を全うした。


 ……腹に穴が空いた。これは致命傷だ。魔王の表情に笑みが見える。でも、あと数秒は動ける。自分は最後の力を振り絞り駆けて、魔王に一撃を加える。魔王の反撃も私の体で壁になり、次のために費やす。


 これは世界の為でも全体のためでもなく、今までの犠牲が私を突き動かした。そうしたかったからそうした。


 私は、少し笑みをこぼした。意外に悪くなかった。何かのために自分が犠牲になるというのは、これで君達と同じになれた気がする。その思考を最後に闇に落ちていった。


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