不自由な選択
10年前、僕の故郷は焼き尽くされた。彼方から着た怪物に。
かの怪物の炎は全てを燃やし尽くした。人々の悲鳴と炎に巻き込まれる街、それが僕が最後に見た故郷の光景だった。
そうして、僕たちは難民としてこの国ガッシュ連邦に逃げ込んできた。逃げ込んできた僕の親たちはこの国での待遇を良くするため兵士として戦いそして死んでいった。いつか、この国で影響力を高めて故郷奪還作戦を行うことを夢見て。
だが、ガッシュ連邦はそんな作戦する訳がない。怪物たちのせいで自国すらも危ないというのに見知らぬ国のために力を使うか? 使うわけがない。そんな事もわからないのか、できないことはできないんだ。
「こんなことを君に言うのもどうかと思うけど、ね」
そう男は語った。その前には縛られた少女がいる。
「どうして! 貴方が」
「僕はこの国と取引して、この国の武器庫から武器を奪おうとする君達を先制攻撃した。それだけだ」
男は当たり前のことを当たり前にやっただけのような口調で語る。しかし、少女はそれを受け入れられない。少女にとって故郷の絆は神聖なものだったからだ。
「同じ故郷の仲間じゃない! なんで、仲間たちを!!」
「武器を奪ったからと言って故郷を取り戻せる訳無いだろう」
吐き捨てるように男は語る。
「だから言って私達の国を消耗するこの国の言うことを聞けって!? 私も……貴方の親もそうやって死んでいったでしょう!!」
「……それでもいい。僕にはそれ以上に守りたいことがある」
男は少し眉を顰めるが迷わずに語る。その言葉に少女は傷ついた様子を見せる。
「ああそう。貴方の親も可哀想そうね。自分の命を守るため、誇りも尊厳も売り渡す奴になってしまったなんて」
その痛みを誤魔化すように少女は男を軽蔑する。
「僕が守りたいのは自分の命じゃない。君だよ」
「なっ、なにを」
意味のわからないことを聞いたかのように少女は混乱する。
「僕は取引した。内々に止めるから首謀者である君の身柄だけは僕が引き取ると」
「えっ」
「君は生き残ると言ったんだ」
「仲間を見捨てて私だけに生き残れとそういうの!!」
「そうだ。君だけを生き残らせるために僕は取引した」
「なんで、そこまでして」
「僕も家族を最前線に追いやったこの国に恨みが無いわけがない! それでも!! 君を守りたい。君に連れ回されていたけど、あの笑顔を見たときからずっと君が大事だった……僕に君を守らせてくれないか」
「…………ダメよ。私は仲間を裏切れない」
少女は動揺したがそれでも、首を振った。やはり少女にとって故郷の絆はとても強いもののようだ。
「……そうだろうな。君はそういう人物だ。だが、もうこうなった以上。僕は何でもするよ」
「なっ、なぃ…ぉ」
「これから僕は君を監禁する。自殺もさせない。君の自由を奪ってでも生かして見せる……ごめんね、菫」




