なんとなくの大きな一歩
「境界線の向こう側に何がありますかですって。まあ、貴方があると思えばあるかも知れませんね。私には同じようにしか思えませんが。
あちらにも人がいて殺し合っています。なら同じじゃないですか。私にはそのようにしか思えないんです。それでもあなたは生きますか?」
私は彼に問いかける。と入っても彼が言う答えはわかっている。ここまで来る人はみんな……そうだから。
「……そうですか。では、いってらっしゃい。
……はい? 寂しそうなのが気になると?
……あなたは不思議な人ですね。私はこれまで何百回も送っていますがそれを聞いてきたのはあなたが初めてですよ」
少し驚いた。私のことをただ向こうに連れてってくれる移動手段以外として見られるのは初めてだったから。
「ああいえ、ただ、私が楽しめないだけですよ。ここまで来る人は未知への希望に溢れている人ですからね。
別の社会、別の生き方を選んだ人間たちがいると知ると楽しそうです。でも、同じですよ。殺し合って、戦争をしています。そして、踏みつけられている」
こんな事を考える私が暗いのは知っている。ここまできて、境界線の向こうにまで向かおうとする人達とは精神回路が違う。
「苦しいのが同じなら、きれいなのも一緒だと?
……ふふふ、あなたは人間に対してとても大きい期待を持っているんですね。悪くないです。人の心を美しいと思えるあなたと一緒なら、もしかすると私も同じように思えるかも知れないですね」
真っ直ぐすぎて、馬鹿にする人もいそうなぐらいきれいな言葉。でも、大真面目に言っているのが分かった。
「なら一緒に来ないかですか?
貴方はいつもそうなのですか。未知への旅を見知らぬ人と一緒に行こうだなんて」
彼は私を誘ってくれた。正直、さっき行った言葉は社交辞令に近いものだった。しかし、彼の言葉は私の心の奥底を少し揺さぶった。
「……もしかすると境界線の向こうには本当に何かがあるのかも知れないですね。
私が見つけられないものは無いからではなく私に見えないだけのかも……」
私は彼を見た。
……私は彼と自分の心の震えを信じることにした。
「でも、私一人じゃ見つけられそうにないです、貴方の手を借りてもいいですか」
「いくらでも貸すけど、貴方の手も貸してほしいですか。意外と取引上手なんですね。いいですよ。私の力ならいくらでも貸します。一緒に旅をする仲間ですものね」
「さあいこう」
「さあいきましょう」




