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老人と少女の倫理についての会話

「ねえ」


 幼い少女がきまぐれかのように軽く隣にいる男性に声をかけた。


「何か用かね」


 答えたのは黒いスーツを着た一人の男性だ。気取ったような口調の男だ。


「倫理ってなあに?」


 よく見ると、少女の服は赤く染められていて手には絶望を浮かべた男の首を持っていた。


「こいつが言ってたんだけど、お前には『倫理がないのかって』でも倫理ってよくわからなくて」


「なるほど、確かに倫理とは難しい問題だからな、理解するのは難しいだろう」


「なら、少し語ろうか」


「倫理とは、自らを肯定するために正当性を与えるためのものだ」


「それが、わかんないのよね。なんで、わざわざ自分に正当性を与えないといけないの。そんなものなくても自分を肯定できるでしょ」


「いい質問だ、確かに最初はだれでも自らを肯定できる。だが、他人からお前は間違っていると言われると、共感によって自分でも自分は間違っていると思うようになるんだ」


「でも、私は誰に言われてもあまり気にしたことはないよ」


「倫理が生まれるには条件があって共感が必要なんだ。何も感じない人に何言われても感じるものはないだろう。共感がない人の倫理観はあくまで自分がうまく生きれるためのツールやアピールなんだ。自分の正当性を主張する必要はないからね」


「なるほど、じゃあ私に倫理がないことを気にする必要はないんだね」


「そうだ、でも倫理にはもう一つ種類があるんだ。それは理想や憧れのための倫理だ」


「理想のための倫理?」


「自分がどうありたいかという理想に近づくためのものだ、たとえ誰かに対する共感が薄くてもこうなりたいという理想があればそれに反しない行動をとるだろう。それが正しさとして。逆に自分の理想の逆、こうななりたくないというものがあればそれが間違っているものという倫理が生まれるんだ」


「確かに、私もなりたくない人はいるわ。それは倫理に反しているということね。でも、そうすると倫理ってとても個人的なものね」


「私もそれについて悩んだものさ、誰かの倫理もそのまた誰かの倫理も肯定できる部分とできない部分がある。……だから、自分の倫理によって誰かが間違っている、誰かが正しいと決めるしかできない」


 幼い少女はその言葉に少し悩んだ素振りをすると、手に持っていた首をゆっくり下ろし、首に向かって祈りの言葉を呟いた。

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