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ライダースーツに腕を通すマガネ、その感触に懐かしさがこみ上げてきた。
イシュバランをパドックエリアの駐車スペースにスタンドさせて、イグニッションキーを抜くと、テムジが乗るはずだったオセロットグリーンが駐機しているエステートのトレーラーの荷台に向かって行った。
テムジはオセロットグリーンの脇で、モニタデバイスを繋ぎ、ライダーを自分からマガネに移行するためのシステムチェックを行っていた。
「マガネ!イグニッションキーを」
荷台に乗り込んできたマガネがオセロットグリーンの差込口にキーを差し込んだ。するとヘッドアイが起動ライトを点灯、コンソールモニターがマガネの目の前に展開した。
「イグニッションキーコード、受け付けました。マガネのID、身体情報、ライド適性データを取得。マシンの調整を始めます。シートに深く座って、ライド位置を決めた後、適性モードをスタートしてください。」
オセロットグリーンに体重を預け、その体をシートに深く沈みこませるマガネ。すると、各可動部分が微細なテスト運動を始める。
「パドックエリアに移動して、各部稼働テストを行います。コントロールはセーフドライブを維持、次の指示を待ってください」
ロックを解除したオセロットグリーンがゆっくりとバックしていくと、マガネを乗せたまま、トレーラー荷台後部からゆっくりとランプスロープを降りていった。テムジも後に続き、一緒にトレーラー脇の開けた場所にまで来ると、オセロットグリーンが停車してスタンドした。
「ライダーの同調テストを始めます。コントロールをマガネへ、バイクモードからビーストモードへ移行、各部動作テストを始めてください」
マガネがハンドルを握り、オセロットグリーンをビーストモードに変形させる。四つ足になったマシンの手足が、自身の操作に連動していること確認すると、「各部稼働問題なし。次、ヒューマンモードへ」の指示に従ってオセロットグリーンの稼働テストを行う。
先だって、あれほどビーストライドを嫌がっていたマガネが、ここまで穏やかな顔でビーストマシンの同調テストを受けていることを不思議に感じていたテムジは、
「マガネ、どうしてビーストライドに?」
と、思わず聞いてしまった。
テムジの言葉を受けて、マガネの脳裏に、あの夜、イシュバランが映し出したホログラムの映像が蘇る。
マシン調整を行っているオセロットグリーンのマシンコンソールの調整ゲージを見つめて、マガネは自分に言い聞かせるように言った。
「うん…、ちょっといろいろあってさ。確かめたいことができたんだ…」
ヒューマンモードのマシンコクピットからテムジを見下ろしながら
「今は、もう一度、ビーストライド、やってみようってさ、決めたんだ」
というと、マガネは、これから向かうコースのスタート地点を見やった。
レース関係者が待機するピットエリアの向こうのライドコースは、イエローストーン湖の外周を結ぶループロードに接続している。湖面に太陽の光がキラキラと反射して、路面がまぶしく輝いていた。
テムジは、なんだかむず痒いような感覚でその言葉を聞くと、ちょっと嬉しそうに、マガネに向かって言った。
「わかった!でも、ほんとに無茶はしないでね!練習試合なんだから、ブランクを埋めるつもりで」
「わかってるって」
マガネは答えると、オセロットグリーンをバイクモードに戻してテムジに向きなおった。はっ!とした表情で、テムジは、真顔に戻って向きなおると、
「ビフの挑発に乗らないように!まずは完走を目指して!」
マガネはその言葉を聞くと、
「大丈夫だよ!イシュバランで、少しは勘を取り戻しているんだぜ!マシンがオセロットタイプでも、あんなピザ野郎!余裕さ!」
鼻息荒く言うマガネの言葉を遮るかのようにオセロットグリーンが喋りかけた。
「失礼ですが、マイライダー、マガネ、現状でのマガネのライダー適正はまだ低水準に位置していると言わざるを得ません。」
「え!?」
オセロットのマシンAIの言葉に不意を突かれるようにマガネが反応する。
「いや!そりゃ、まあ、このマシンに乗るのは初めてだし…」
聞くや否や、オセロットグリーンは続けた。
「マシンの問題ではなく、ライダーの、経験不足からくる代謝反応が、全国のミドルクラスライダーの平均を下回っているため、今回のレースでは苦戦が予想されます。マガネの、ここしばらくのライド記録を見ると、イシュバランが、マガネの未熟なライドテクニックを実にうまくサポートしていました。しかし、現在のセーフティの水準から閾値を最大限許容しても、イシュバランと同じような、セーフリミットを無視したサポートを、私、オセロットグリーンが行うことはできません」
「え、え、…どういうこと?」
慌てるマガネにテムジが神妙な顔答える
「マガネがうまくライドできていたのは、…マガネの無茶を、あのマシンが性能でカバーしてたからだって言ってるみたい…」
「え?じゃあ、リミット下げればいいじゃん?え?ちがう?」
困惑しているかのようなマガネ向かって、テムジが答える前に、オセロットグリーンが答えた。
「ライダーの生命と事故防止にかかわることですので、私にそれはできません。マガネ。その条件を除いても、残念ですが、ユニバースの過去公式記録と比べても、ライダーとしてのスキルや適正レベルは非常に低く判定されています」
オセロットグリーンの言葉を受けて押し黙ってしまう二人。顔をこわばらせたマガネは、無理やり引きつった笑いを浮かべて「は…ははは!大丈夫!走っているうちに判定も覆るさ!なあ…テムジ」と、テムジのほうを見た。
「え…ああ…」
あいまいな答えをするテムジは、不安気な面持ちでオセロットグリーンのコンソール画面を見つめた。




