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ガレージを飛び出したビーストマシン、イシュ・バランは生け垣を軽く飛び越えると、月明かりに輝く麦畑の合間を飛ぶように走っていった。
上昇していくイシュ・バランの背に乗るマガネの眼前に、アステロイドベルトと星が降るような夜空が迫るように輝くと、目の前の夜空が一気に急降下、金色の麦補がたなびく海原にダイブしていく。麦穂が波打つ麦畑に潜り込むように着地するイシュ・バランは、ビーストモードのまま麦畑の海を加速して走っていった。
ガレージから聞こえてきた音に気が付いた善五郎が、二階の窓から外を伺うと、小さな青い機影が、スピードに乗って麦畑を駆け抜けていくのが見えた。
驚き身を乗り出す善五郎が、次の瞬間口の目を細めてほほ笑んだ。
「…一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにてあらん。もし死なば、多くの実を結ぶべし──」
善五郎が見つめる中、マガネを乗せたビーストマシンは、麦補が波打つ金色の平原を飛ぶように走っていく。
それがたまらなく美しく見える善五郎は思わずつぶやいた。
「エウロイよ、マガネはやはりおまえの息子じゃ」
イシュ・バランは、これまで動けなかった分を取り戻すかのように駆けていった。
「うひょおおおお!」
風にあおられ思わず叫ぶマガネ。目の前の風景が飛ぶようなスピードで流れていく。
高速で駆けて行くマシンはあっという間に麦畑を超えて山林に分け入り、地形に合わせて変形しながら疾駆していく。ビーストモードから大きくジャンプしたイシュ・バランはハイウェイにバイクモードで降り立つと、S字に蛇行して体制を立て直した。
「オートドライブによる適正テストが終了しました。次に運動機能の同調テストを行います」
大型トラックのハイビームが、マガネとマシンに向かってくる。
「あ、危ない!!うわああ」
再びビーストモードに変形したマシンは、迫るトラックをひらりと乗り越えた。
「同調テスト終了後に、マニュアルによる最終調整を行います。カウントダウンの後、マガネにコントロールを渡します。備えてください」
「ええっ!ちょ!ちょ!ちょ!」
有無を言わせぬように、9・8・7…とカウントダウンを始めるマシン。その間も、マシンは夜のハイウェイを駆け抜けていく。
「うわぁああああ……」
慌てるマガネをそのままに、インターチェンジから、アイスバーンを乗り超えて、夜の公園を横断していく。イシュ・バランは、そのままサカヴィニアタウンに通じる湖畔にかかる大きな吊り橋に向かって走っていく。吊り橋のメインケーブルに飛び上がり、ビーストモードのまま、ワイヤーを駆け登っていく。
「2・1・0。コントロールをマガネに渡します!」
「こっ、ここで!?うおおおぉぉぉ!」
吊り橋の頂点に差し掛かった段階で、コントロールをマガネに差し出すイシュ・バランはバイクモードに変形して、メインケーブルの上に乗ると、一気に駆け下りていった。
叫んでいるだけだったマガネが歯を食いしばり、マシンを操舵しようと懸命にハンドルを握る。
マガネ「!」
支柱を乗り越えたマシンがビーストモードから、ヒューマノイドに一気に変形する。
そして大きく空中回転をして姿勢を制御、手足を広げ減速し、ひらりとビーストモードに切り替え地面に降り立つと、アスファルトを激しく滑って停車していった。
反動に大きく身を揺さぶられながら、激しく息を切るマガネが顔を上げる。
突然のビーストライドに心臓の鼓動が止まらない。
何とか自分を落ち着かせるため大きく深呼吸すると、イシュ・バランをビーストモードからバイクモードに変形させ、とろとろと、路肩にマシンを寄せていった。
「ふ、ふうっ……」
バイクを駐機させたマガネは、大きく一息つくと、深くシートに身を任せた。
仰向けに目を開くと、その目の前には降るように漂う夜空の星々、そして、対岸に広がるサカヴィニアタウンの夜景をキラキラと反射させた巨大な湖がゆったりとさざ波をたたえて広がっている。
「マガネ……自分を信じろ」
ホログラムのエウロイが言った言葉を思い出すと、びゅう!っと秋風が舞い上がり、マガネの頬を冷たい空気が包んでいった。




