第42話
「――これが剣真と出会う三ヶ月前に起きた、私に関することだよ」
一通り語り終えた彼女は少し疲れた様子で言った。
なんというか............衝撃的な情報量が多過ぎて、どう切り出していいのか言葉が出てこない。
「ごめんね。両親が亡くなったこととか、いろいろ嘘ついてて」
「......」
俺をだましていたことが許せない、そんな気持ちは全然なかった。
むしろ俺の怒りの矛先は、前世で悲しい最後を遂げた彼女に、生まれ変わった先でもまた悲劇をもたらせた神に向けられた。
こいつがいったい何をしたっていうんだ!? ふざけんな!!
握った拳の中は、爪が食い込んで軽く内出血を起こしている。
「......身体はもうなんともないのか?」
「うん。全然平気だよ」
こんなことしか言えない自分がどうしようもなく悔しい。
とりあえずひとつひとつ整理するように、順を追って話すことにした。
「入院先の病院で母さんと再開していたのも驚いたが、まさかそこでロコの記憶が蘇ったなんてな。てっきり生まれ変わった最初から持っていたもんだと」
「事故がきっかけかどうかは分からないけど、病室の前でたまたまママさんの匂いを嗅いだら頭がもの凄く痛くなってさ......気づいたら全部思い出してた」
話しを聞く限りではその可能性が高いだろう。
加那の両親を奪った事故が、結果としてロコの記憶が蘇ることに繋がるなんて、皮肉な話だ。
「高校は退院してから全く行ってないのか?」
「うん、一度も。誰も友達いないから、行ったところで気まずいだけだし」
寂しそうに微笑むその表情に、俺の胸は更に苦しくなる。
神社で中学の同級生と会ったにも思ったが、加那は人付き合いがあまり得意な方ではないのかもしれない。
ロコ、前世では人懐っこくて近所でも有名だったのになぁ。育ってきた環境でこうも変わるものとは。
「ずっと一人でいるの、辛かっただろ?」
「そりゃね......辛過ぎて、街中で声かけられた知らない男の人に着いて行っちゃったこともあった。最悪でしょ」
俺はまだ仕事という逃げ道があったから、天涯孤独になってもどうにか耐えられた。
だが唯一頼りにしていた叔母にも見捨てられ、話し相手すら誰もいなかった彼女。
そういう行動をとってしまうのは栓が無い。
「今思えば、あれはママさんが天国から『なにやってんの!』って、止めてくれたんだと
う。だから私を心配して剣真と会わせてくれたママさんには感謝しなきゃ」
確かに俺はその時、仕事帰りに道端で苦しそうに息をしていた女の子に声をかけた。
が、周辺に街灯もほぼなく暗かったこともあって、顔まではっきりとは確認できなかった。
「そのママさんの使いを尾行するなんて......どおりで家の場所が分かったはずだ」
「へへ☆」
「へへ、じゃねぇよ」
彼女は人差し指で鼻の下をこすって軽く微笑む。
前世の記憶を持っていても結局は普通の人間。
街中で俺の匂いをみつけて家の場所を特定するなんて芸当は無理に決まっている。
「でもそのおかげで剣真は楽できたでしょ?」
「まぁ......な」
「ママさんがもういないのは残念だけど......私も、また昔みたいに剣真といろんな思い出を作ることができて楽しかったよ」
はっきりしない俺の言葉に、彼女は穏やかに微笑んだ。
そして、続けてこう言った。
「......私ね、来月になったらこの街を出るの。だからさ.........もう終わりにしよう?」




